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美香は恐怖におびえている。
初恋の相手、美香。その美香を守れるなら…
と、冷や汗を吹き出しながら少しだけ微笑んだ。
悠希は少し、決心した。それでも…と、悠希は血を軽く吐いた。
「椿己、ちょっと…無理するかも。頼むわ」
「…悠希?」
悠希は息をつくと、扉に思いっきり手をかけた。
ぐぐっと手に力を入れ、入らないなりに、力をこめて、扉を押した。
扉はゆっくりと閉じていき、閉まっていく…
頭に、幻が浮かんでくる。その幻は、死んだときの姿へと変わっていく。
あぁ、そうだったのか。幻は、死に至ったときの、白に殺された時の姿へと変わっていくのか。
“うじうじしてたら…呪ってやるからな!”
そうだな、寛也 ――――
後、少し――後少しで、美香は、椿己は助かる。
そう思えば死ぬのは恐くなかった。悠希は最後の一押しを、決めた。
今、おれも逝く――
しかし、その瞬間、椿己が突然悠希の体を押しのけ、自分が扉に手をかけた。
「馬鹿…!?椿己!止めろ!!」
悠希は椿己の体が透けていくのが見えた。美香も、見えるのか、驚きの表情を浮かべている。きっと、おれも透けていたのだろうか。
「やめろ!閉めるな…俺がやるから!」
「うるせえ!!」
椿己は悠希に怒鳴りつけた。
だが、その顔は笑っているようにも見える。
椿己はぐぐっと力をいれていく。
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!悠希!お前が、お前が消えたら悲しむやつがいるだろうが!」
悠希はいきり立って言い返した。
「それは…お前にだって言えることじゃねえか!」
椿己の体が、どんどん透けていく。足なんかはもう、見えなくなっている。
悠希はあせった。
「手をはなせ!椿己!」
「この鈍チン野郎!」
椿己は苦しそうな表情を浮かべながら叫んだ。
「お前な…お前が惚れた女くらい、お前が幸せにしろ!」
「はぁ?!」
悠希ははっとして、美香のほうへ振り返った。
美香は真っ赤になって悠希を見つめている。だが、悠希には引っかかることがあって仕方が無かった。
「お前だろうが!美香の彼氏は!お前が…」