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いや、閉めようとすると、生気が吸い取られ、自分を保てなくなってしまう。悠希はふらふらと地面に座り込んだ。
「どうしたんだ?」
椿己が心配そうに悠希に尋ねる。美香も心配そうに悠希の顔を覗き込んでいた。
「…これ、閉めようとすると、力が…吸い取られる…」
悠希の息は上がっていた。しかも、見えないものが、見える。
聞こえないはずのことが、聞こえてくる。
――「悠希!」
「悠希?」
「何してんだよ、悠希」
「相変わらず間抜けだねー」
間違いなく、頭に浮かび、響く声は、殺された冬香、寛也、亜海だ。
それも、生前と全く変わらない、元気な姿。
悠希は目の前で寛也を殺させてしまっている。そのため、心にひどく響いてくる。
それでも、閉めなければならない。悠希は冷や汗をぬぐった。
「何とか、閉めてみる」
それから、悠希はあらゆる方法で、扉を閉めようとした。
だが、そのたびに生気が吸い取られ、力が入らなくなる。
あの姿や、あの声も呼んでくる。
閉めようとすればその声や姿も苦しんでいる様になる。
――「やめろぉお悠希ぃい!」
「俺をこれ以上苦しめるなぁぁあ!!」
寛也のその言葉が悠希自身を痛めつけてくる。
所詮は幻なのだが、痛みは尋常ではない。
恐ろしいほどの吐き気が悠希を襲っていた。悠希は耐えられずに、胃液を吐いてしまった。
吐くものがもう無い。だから苦しみも増す。
だが、絶対に閉められないというわけではなかった。幻だって気にせずに、閉めようと思えば、閉められるのだが、どうも…閉め切ってしまえば…
確実に、死につながっている気がしてならない。
すでに水位は悠希たちのひざあたりまで来ている。
もたもたしている暇は無い。事は一刻を争っている。
「悠希ぃ…」