ベレンガリア、初めての
一方、ベレンガリアはオディロンに連れられて定宿、昇竜の春風亭に戻ってきていた。
オディロンはすでにおらず、部屋には一人きり、先ほどの光景を反芻していた。
アランの太刀筋を思い出すだけで体が熱くなり、血が胸へと集中するかのような感覚を覚えていた。
この感情は一体何なのか?
ベレンガリアには分からない。分からないのに胸の鼓動が激しい。たった今、目の前で兄を殺されたばかりなのに……
なのに……全く悲しくない……
それどころか、兄を殺害した男……アラン・ド・マーティンのことが気になって仕方ない。
そうしてベレンガリアは、眠れぬ夜を過ごすことになってしまった……
ベレンガリアを部屋に寝かせたオディロンは真っ直ぐ家に帰ってきた。
「ただいま。父上は帰ってる?」
「おかえり。まだよ。詰所に行ったのだったわね。大変だったでしょう?」
「そうでもないかな。ようやく解決したと思うしね。やっぱり父上はカッコよかったよ!」
「うふふ、そうでしょう? アランは最高の男なんだから。」
「あー言わなければよかったよ……
そう言えば、この前父上は、色んな女の子と付き合ってこそ最高の女性に巡り会える。みたいなことを言ってたよね? 僕はどうするべきなんだろう。ふと気になってしまったんだ。」
「あらあら難しい問題ね。あれはアランはそう思うってだけの話だわ。お前はお前で好きにすればいいのよ。」
「うん。そうだよね。最近先輩に夜の店に誘われるものだから、どうするのがいいかなって。」
「ふふ、そんなのどっちでもいいわよ。行きたかったら行きなさい。そんなことぐらいマリーは気にしないわよ。ちなみにアランに一言相談しとくといいわよ。」
「うん、そうするよ。マリー以外に興味がないから別段行きたいわけでもないしね。」
そんな会話をしているとアランが帰ってきた。
「ただいま。いやー参った参った。これから面倒になりそうだ。」
「父上おかえり。あれで終わりじゃないの?」
「終わらんな。ダキテーヌ卿も頭ではパトリックが悪いことは分かっているし、ああなっても当然だと理解している。
だが、奴の母親や兄はどうか、いくらダキテーヌ卿が説明したところで納得するか怪しいものだ。こちらが与えた温情も理解できるとは思えないしな。
あいつはバカだったから自分だけで突っ走ってきたが、他がどうかは分からん。まあ用心しとけってことだな。魔境で皆殺しにされてしまったら証拠なんか残らんからな。」
「気を付けておくよ。ベレンちゃんもショックだったろうからしばらくお休みかな。夕方の城門辺りで小銭稼ぎでもしとくよ。」
オディロンの小銭稼ぎとは、汚れて帰ってくる冒険者に洗濯魔法を用いることである。




