ダキテーヌ卿とアラン
そして後日、アランとオディロンは連れ立ってダキテーヌ家を訪れた。
「ダキテーヌ卿、本日は御目通りをお許しいただき恐縮でございます。」
「いやマーティン卿、よく来てくれた。私事ですまない。粗方はパスカルから聞いている。今日はただの確認だと思ってくれ。」
「ええ、おそらく大筋はその通りかと。詳細は何なりとお聞きください。」
「うむ、では一年半前にベレンガリアは出て行ったのだが、なぜその日だったのか、前触れなしに突然だったのが気になっている。心当たりはあるだろうか?」
「それにつきましては私、オディロンから申し上げます。おそらくその日だったのだと思います。昼間、私はベレンガリア様から相談を受けたのです。内容は、家を出て冒険者をやる。だから一緒にやらないかと。また一人で冒険者をやるぐらいなら鉱夫でもやる、とも言われておりました。
そして私は、君となら冒険者をやるのもいい、ただしダキテーヌ家を敵に回さないことが条件だと答えました。」
「なるほど、それでベレンガリアは勘当されるべく行動したというわけか。」
「おそらくそうだと思います。ベレンガリア様にも伝えましたが私には意中の女性がおります。そのために冒険者をやっていると言っても過言ではありません。つまり女性としてベレンガリア様に興味はありません。リーダーを任せるに足る、得難いメンバーだとは思いますが。」
「ふむ、それを喜べばいいのか悲しめばいいのか。オディロン君、君に一因はありそうだが責任は皆無か……」
そのまま和やかに会談も終わろうとしていた時、乱暴にドアを開け何者かが乱入してきた。
「貴様か! ベレンを誑かした男は!」
「パトリック! お前は出てくるなと言っただろう。」
「父上は騙されているのです! 純真で可憐なベレンは我々が守ってやらねば!」
「もう話は終わったのだ! ベレンガリアは勘当! それに変わりはない! もう放っておけ!」
「父上! 納得できません! なぜベレンがここにおらず下級貴族風情がいるのですか! 話し合いならベレンも同席するべきでしょう!」
「ベレンガリアは勘当の身だ。我が家の門をくぐることは許されん。会いたいならお前から会いに行け。」
「しかし父上! こやつらが隠しているに決まっております! ああ可哀想なベレン。おい! 白状しろ! ベレンはどこだ!?」
それに対してアランもオディロンも口を開かない。無表情でパトリックに視線すら向けない。
「おい! 何とか言え! 直答を許す! 答えろ!」
当主である父、ポールは呆れ顔だ。最早言う言葉すら失ったようである。
依然としてその声に返事をする者はいない。
「そうかお前達、どうあってもベレンの行方を隠すつもりだな。口を開くと秘密が漏れるため黙秘を貫いているのだな!ならば是非もなし! 剣にて口を開かせるのみ! 抜け! 勝負だ!」
ここでアランが嫌そうに口を開いた。
「ダキテーヌ卿、これは決闘を申し込まれたと考えてよいのでしょうね? 相手は私かオディロンか、どちらにしましょうか?」
「ち、違うのだ! 待ってくれ! 誰か、誰かある! パトリックを摘み出せ! 縛り上げて地下に放り込んでおけ!」
「なっ! 父上!? なぜです! 私が負けるとでもお思いですか! 私が下級貴族風情に負けるはずなっ」
パトリックは猿轡を噛まされ運ばれて行った。命拾いしたことに気付かないのは本人だけなのだろう。
「ダキテーヌ卿、残念ですが万が一、ダキテーヌ家の敷地外で彼に出会ってしまったら手加減はできません。見逃すこともできません。もう遅いのです。」
「う、うむ。すまない。貴殿の言う通りだ。一度決闘を口に出したからには最早撤回できぬ。
妹思いだと分かっていたが、まさかあそこまでとは。ご足労いただいたのに不調法に終わり申し訳ない。」
こうして会談は終わった。
一人の闖入者のために禍根が残った……




