カースは再びモンスターに遭遇する
昼からの四時間目は社会。
やはりウネフォレト先生が担当する。
「今日からの社会は私達の国、ローランド王国について勉強しましょうね。」
先生はそう言って白板に大きく地図を描き始めた。
「このようにローランド王国は三方を海に囲まれています。そしてクタナツはここ、領都はここです。
ではアレクサンドルさん、王都はどこですか?」
「はい、ここです。」
「正解!よく勉強してますね。みんな拍手ー。」
クタナツが北端だとしたら、王都は南西の端に位置する。
評判が悪い騎士はここからさらに西や南なのだろう。
「ではマーティン君、王国の中央部にある山を何と言いますか?」
「はい、ムリーマ山脈です。」
「正解です。バッチリですね。」
地理にはあまり詳しくないが、たまたま知っててよかった。
この国では大きな地図は誰でも閲覧できるが、外形が分かるのみだ。街道や橋、高低差は記入されていない。よって旅をしようと思ったら詳しい人間にガイドを頼まないと辿り着けない。
例えば領都から王都に行くなら山越えルートもあればムリーマ山脈の外周を辿るルート、大回りして海岸沿いを通るルートなど、いくつもあるらしい。
中には盗賊が跋扈しているルートもあれば魔物が出没するルートもある。
ムリーマ山脈以南は北側よりだいぶ安全ではあるが、それでも油断できない、そんな大陸だ。
さて、本日最後の五時間目は体育、
やはり担当は変わらずデルボネル先生だ。
「よーし、みんな元気だったかー? 三年生になったことだし、実践的な授業に入るからなー。素振りもそろそろ飽きてきただろ?
そこでこれに向かって杖を振ってもらおう。」
そう言ってデル先生は水壁の魔法を唱えた。
「三人ずつこれに向かって杖を振り下ろしてもらうぞ。杖が地面に着いたら合格な。途中で勢いが止まったら失格だからな。」
目の前には幅三メイル、高さ一メイル、奥行き半メイルほどの水壁ができていた。
「まずは見本だな。メイヨール君、やってみてくれ。」
「押忍!」
さすがスティード君、男の挨拶を心得ている。先生も納得顔だ。
上段に構えた刃引きの剣を迷わず振り下ろす。途中で腰を折り曲げ刃が地面に着くよう調整を加えている。
見事に水壁を一刀両断し、刃は地面を捉えていた。
「よーしお見事。分かったと思うが、ただ杖・剣を振るだけだと地面に着かないからな。
腰か膝を上手く使ってやってみような。ではそこの三人から行くぞー。」
意外とみんな苦戦している。
パスカル君達上級貴族コンビですら杖が腰の高さより下に行かない。
普通の剣の振り方と違うことを求められているからだ。スティード君はすごい!
私の番が回ってきた。私とセルジュ君とグランツ君だ。
「始め!」
先生の声に合わせて木刀を振る。予想以上に水の抵抗が大きい。
結局、膝より下で踝より上ぐらいだった。惜しい。
ちなみにセルジュ君は肩より少し下、グランツ君は臍ぐらいだった。これは悔しいから帰って特訓だな。
そんなことを考えていた終了間際、フランソワーズ・ド・バルテレモンちゃんがスティード君に何やら話しかけている。
「ねぇメイヨール君、みんな杖を使っているのに自分だけ剣を使うなんて卑怯じゃないかしら?」
「卑怯? ごめんよく分からないよ。何か気に触ることをしたかな? ごめんね。」
スティード君は困っているようだ。
しかし私がしゃしゃり出るわけにもいかない、せめて聞き耳を立てていよう。
「いえいえ、私のことなど問題ではないのです。みんなは杖を使って先程の課題をこなしておりました。でもメイヨール君は金属製の剣を使っておりましたわね? 自分だけ楽をして課題をクリアするなんて騎士を目指す身として卑怯ではないかとご心配申し上げている次第ですわ。」
「なるほど! 分かったよ! 心配してくれてありがとうバルテレモンさん! 僕がこの剣を使っている理由はね、杖だと軽過ぎて訓練にならないからなんだ。
バルテレモンさんの言う通り僕は騎士を目指しているからみんなより大変なことをしないといけないんだ。みんなより重い物を持っている僕を心配してくれるなんて嬉しいよ。ありがとう。」
「うぐっ、分かればいいのよ。ふん!」
そう言い捨ててバルテレモンちゃんは取り巻きの中に戻っていった。スティード君はぽかんとしている。
何がしたかったのだろうか? 木刀を使っている私にはお咎めなし?
それにしても口下手だと思っていたスティード君がああも見事に言い返すとは、いや本音を言っただけだな。
それにしてもバルテレモンちゃん、面倒くさいタイプだな。あれも上級貴族なりの処世術なのか?
このまま何事もなければいいが。




