アレクサンドリーネの貞操
私は朝から二時間かけてカスカジーニ山へとやって来た。いつだったか命を狙われたこの山に。
降り立った場所もまさにそこ。カースによって輪っかのように焼き尽くされて、未だに草も生えていない。それより内部ではある程度木も生えてきているのに。
ここから歩いて山を降りながら狩りをしよう。今日は大物に出会えるだろうか。
昼。やはりただ歩いているだけで大物なんてそうそう出会えない。これでは弱いものイジメの小遣い稼ぎでしかない。あれをやるしかない……か。
私にできるのだろうか?
確かにトビクラーやガルーダにも勝ってきた。でもそれはカースが見ていてくれたから。王国一武闘会の決勝戦で実力以上を発揮できたのもカースが一番近くで見ていてくれたから。
私は……弱い。
『豪炎』
カースの火球は岩でも鉄でも溶かすのに、私の豪炎では立木を燃やすのがせいぜいだ。魔力をしっかり込めてもその程度なのだ。果たしてどの程度の大物が来るのだろうか。
「おい、いたぜ!」
「おっ、こんなとこにいたかよ」
「案外上まで登ってやがったか」
「ここなら邪魔は入らんな」
「おーおー派手に燃やしてやがるぜ」
ゾロゾロと現れた冒険者風の男達。目の前には五人だが、おそらくもっといそうだ。私はこれだけの人間が近付いていることにも気付けなかったのか……逃げようか。この距離ならまだ逃げきれる……
「おーっと逃げんなよ?」
「逃げたらお前のお友達が酷い目にあうぜ?」
「そうそう。あのかわいい子が可哀想な子になっちまうぜ?」
「おっ、うまいねぇ」
「おらぁ! 分かったら脱げや!」
まさか、こいつら私の体目当て? こんな危ない山の中で!? 正気なの? もうすぐ大物が来るかも知れないってことすら分からないの?
『氷散弾』
「いって!」
「くそっ!」
「おい! やっちまうぞ!」
ちっ、二人しか仕止められなかった。
『氷弾』『氷弾』
「ぐあっ」
「くおぁっ」
残り一人!
「これを見ろ! 知らねーぞ!」
『氷弾』
終わった。何を見せたかったのか知らないが、私だってクタナツの女。人質は効かない。
それなりに魔力庫の中身をばら撒いているが、回収の必要があるのはギルドカードと現金ぐらいだろうか。でも、無視してもう帰ろう……
「痛っ!」
首に? まさかまた吹き矢?
嘘? 体が痺れる? 動かない!?
「やっと大人しくなったかよ」
「高い金払っただけあるよな」
「全くだぜ」
「見ろよあの顔! いつも余裕かましてるクセによぉ!」
「ギャハハ! ザマぁねーなー!」
「闇ギルド特性の麻痺毒だぜ! お貴族様御用達の高級品だあ!」
「好きだろ? 高級品はよぉ!」
「そんなオメーにはさらにプレゼントだ! なんとこの首輪! 金貨五枚もしたんだぜ?」
「高級品だぜ! ありがとうございますって言えよ!」
「バーカ! 麻痺して喋れねーよ!」
「よーし! んじゃ俺からだからよ! 見張りを頼むぜ!」
「仕方ねーなー。早くしろよ!」
「どうせ早ぇーに決まってんだろ!」
なぜ、これだけもの人数が……
なぜ、私はそんなことにも気付かず……
カースがいないと周囲を警戒することすらできないの……
「おい! こいつ生意気に泣いてやがるぜ!」
「ハーッハァー! いいねいいねー! その顔が見たかったんだぜ!」
「いつもいつも男を舐めやがってよぉ! そんなに舐めたいんならいくらでも舐めさせてやるからよぉ!」
「ベイルリパースだ? ノーブルーパスだ? 知るかよそんな店!」
「カァーこいついいコート着てやがるぜ!」
「おーおーそんなコート着て呑気に狩りですかぁ? お貴族様は優雅ですなぁ?」
「オメーら喋ってねーでさっさと脱がせろや!」
「あぁ? てめーが先なんだろうが? てめーで脱がせろや!」
「なんなら俺が先でもいいぜ? お手本ってやつを見せてやるぜ?」
「どっちでもいいから早くやれや。」
「くそっ、脱がせにくいコート着やがって!」
「オメーの手際が悪ぃんだよ。どいてみろ」
何の抵抗もできない……
カース以外の男に……
なのに舌も噛めない……
カースから借りてるコート、真っ白なコートが剥ぎ取られていく……
「やっぱこいついい体してんなぁ!」
「そんなセリフは全部脱がしてから言えや!」
「手を止めるんじゃねぇよ! さっさと脱がせろや!」
「うるせぇな! 俺ぁゆっくり脱がす派なんだよ!」
「そうそう、焦んじゃねぇよ。どうせこの女は今日から俺らの奴隷なんだからよ!」
「そうそう、いつでもやり放題だぜ?」
「闇ギルド様様だな!」
一体何を言っている?
私が奴隷?
今日から?
殺す気はないの?
……甘いやつら……
……それならそれでいい……
この場を……生き延びられるのなら、絶対皆殺しにしてやる……
「うひょー! きれいな肌してやがんなぁ?」
「さすがお貴族様だぜ!」
「高そうな下着つけやがってよぉ!」
「とっとけよ? 売れんじゃねぇ?」
「どこにだよ? 古着屋か?」
「青髪変態貴族とかによ?」
「オメー冴えてんなぁ!」
「さーて、ようやく最後の一枚だぜ」
「俺ぁ知ってんぜ! こーゆーのは黒のレースってんだぜ! いやらしい女だなぁ!」
「期待してたんだろ? 男に捨てられて寂しくてよぉ?」
「ほーら言ってみろよ? 寂しいから男が欲しいですってよ!」
「だから喋れねーって。早くやれや!」
カースにしか見せたことがないのに……
いいわ、私の純潔はすでにカースに捧げた。
やるならやれ。
こいつらの顔は絶対忘れない。
必ず、全員殺す……
「あっ……」
「ん? どうした?」
「なんだこいつ! 脱がせてもないくせにもうイッちまったの?」
「ギャハハ! 早すぎだぜ!」
「まあいいや、イッたんならどけや。まさかもう一回とか言うなよ?」
「おい、さっさとどけや! 次ぁ俺だぞ!」
臭い……
汚い男が私の上にのしかかって動かない……
やるならやれとは覚悟はしたけど……
カース……ごめんなさい……
「さっさとどけって!」
「邪魔なんだよぉ!」
「まだやんのか?」
「あれ? こいつ……」
「おい! 死んでんぞ!」
「この女! やりやがったな!」
私ではない。
できるはずがない!
ああ……
こんな時に、何でこんな時に来てくれるのよ!
カース!
「お前ら皆殺しだ。」




