友、遠方より来たる
秋、もうすぐ七歳の誕生日を迎えるある日、我が家に客がやってきた。
フェルナンド先生だ。
「やあオディロン君にカース君、変わりがないようで何よりだね。」
先生こそ変わってない。もう四十過ぎだよな? 王子っぷりがすごい。
ところで子供に向かって変わらないって褒め言葉じゃないからね。四年ぐらい経ってんだからだいぶ大きくなってるからね?
「先生お久しぶりです。大変贅沢なお土産をありがとうございました! 愛用してます!」
「かっこいい木刀をありがとうございました! 僕も愛用してます!」
「それはよかった。しかし今回はもっとすごいお土産を持ってきてしまったよ。」
「まあフェルナンド様ったらいつもすみません、ありがとうございます。」
「なんのなんの。実は切れっ端や余りだったりするんですよ。だからお気になさらず貰ってやってください。」
そう言って先生は魔力庫から黒い木材を取り出した。
「エルダーエボニーエントだ。こいつは強く厄介だった。大きくて堅い上に歩きやがってね。エビルヒュージトレントでさえ切り裂く私の剣でも傷をつけるのが精一杯だったのさ。勝ててよかったよ。」
「そんな凄いものを……いいんですか……僕らには贅沢過ぎるのでは……」
オディ兄の心配ももっともだ。
エビルヒュージトレントでさえ値段が付けられないと言うのに、その上を行くなんて。
「前回のやつで武器を作ったのなら、今回のこれは防具でも作ったらどうだい?」
「それはありがたいけど兄貴……これほどの逸品を加工できる職人となると……
前回は木刀や棒だったから魔力を込めまくって無理矢理削れば何とかなったんだが。」
「それもそうだな、私も心当たりがないな。
ならばさらに贅沢をして魔法工学博士に頼んでみるか。」
「さすが兄貴、そんなド偉い人にもツテがあるのか。」
「いや、ない。ないけどこれほどの逸品だ。博士になるほどの人なら必ず興味を示すさ。
報酬に他の部分を提供すれば喜んでやるだろうよ。」
「そこまでして貰っていいのか? いくら何でもお土産のレベルを超えてるぜ。」
「なーに、どうせ王都に行く予定だったんだ。ついでだついで。あぁ折角だからアッカーマン先生にクタナツ土産を用意してもらおうか。クタナツ名物って何だろうな。」
「ふふっ、じゃあ私が魔力を込めたブローチなんてどうかしら? お若い奥様がいらっしゃるんでしたわね。そして先生には魔境産の元気が出る薬なんていいかも知れないわ。」
「さすがイザベル様、いいセンスをされている。では魔力はこれに込めていただけるかな? それを道中の街で加工してもらおう。
元気が出る薬は二番街辺りに売ってるかな。それなら用意してもらうまでもない。ここを離れる時に買って行くさ。」
そう言って先生は母上に何やら綺麗な石を手渡した。母上はそれを握って錬魔循環のようなことをしている。
それより元気が出る薬が気になるな。お年寄りが飲むものなのか。
「ということでお土産は来年以降のお楽しみだな。早くて一年、遅くとも三年後にはまた来ると思うよ。」
「はい、ありがとうございます。ところで先生はこのエルダーエボニーエントをどこで討伐したんですか? やっぱりノワールフォレストの森なんですか?」
オディ兄にしては珍しい質問だな。何か気になることがあるのかな?
「ああそうだよ。あそこのボスと言えばエビルヒュージトレントだと思っていたが、どうやら違ったようでね。エルダーエボニーエントがボスなのかもな。」
「ありがとうございます。参考になりました。」
「オディ兄にしては珍しい質問するね。まさかトレントでも狙うの?」
「実は卒業してからのことなんだけど、冒険者をやろうかと考えてるんだ。確定ではないけど、メンバー次第ではいいとこまで行けそうなんだ。」
「ほお、オディロンにしては思い切ったな。
確かにお前の腕ならグリードグラス草原手前までなら問題ないだろう。」
「僕もなんとなくそう思ってる。そして仲間と腕を磨けば草原も攻略できる見込みなんだ。」
おお、オディ兄が意外な進路を。
やはり一攫千金には冒険者なのか。
「ふふ、おとなしそうに見えてもやはりアランの子だな。オディロン君、生き残ることを最優先に考えるんだよ。そうなるとオディロン君へのお土産は少し奮発してあげよう。楽しみにしておくといい。」
「はい、ありがとうございます。」
あれをお土産と言う先生が奮発したら、どんな凄い物が貰えるのやら、オディ兄にサイズが合わなくなったら私が貰おう、予約だ。




