巨大樹イグドラシル
心を鎮めて錬魔循環を始める。普段から魔法を使う時には無意識にやっていることだが、意識して魔力を全身に巡らせる。こんなことで姉上が助かるならいくらでもやってやる!
「もっとだ。足りんぞ。」
まだやってねーよ!
いくぜ!
イグドラシルに手を当て魔力を放出する。
唸れ……私の魔力!
「なっ……」
もう私の魔力は空だ。しかしまだまだ!
予め取り出しておいた魔力ポーションを飲む! 一本あたり一割ぐらいしか回復しないが、構うものか。片っ端から飲んでやる!
取り敢えず五本飲んだ。いくぜ二回目!
「ぐぅ……」
さっきから何言ってんだこいつ? アーさんだっけ?
三回目、四回目と続ける。
まだまだいくぜ!
「待て……」
「どうしました?」
「もういい……終わった……」
「終わったとは?」
「あれを見ろ……」
アーさんが指差した先には何やら実が生っているようだが。
「あれは百年に一度だけ実を結ぶ『イグドラシルの結晶』だ。次の機会はおよそ八十年後だったのだがな……お前の魔力はイグドラシルが八十年かけて蓄える魔力に匹敵したということだ。」
「あの実があれば姉は助かるんでしょうか? 貴重な物とお見受けしましたが、いいんですね?」
「村長が許したのだ。問題ない。助かるかどうかはこれからだ。待っていろ。」
アーさんは飛び上がり、実を優しく捥いでいる。あの実を使うってことだな?
おっ、いつのまにかエルフが集まってきてる。あれが実を付けるって結構珍しいイベントなんだろうな。
「おい! アーダルプレヒト! 何勝手に実を捥いでんだよ!」
「うるさい。村長の指示だ。文句は村長に言え。」
なんだ? まさか実を狙ってんのか? 絶対渡さんぞ? 魔力は一割も残ってないけど。
「まさか人間なんかのために実を使うってんじゃないだろうな? 俺は認めねーぞ!」
「だから文句は村長に言え。俺は知らん。」
「そこの人間! 今なら見逃してやる! さっさと消えろ!」
「うるせぇ殺すぞ!」
「お、おい!? 人間?」
アーさんは心配してくれてるのか。でもこっちは姉上の命がかかってんだよ! テメーらの内輪揉めは後にしやがれ! マジ殺すぞ?
「アーさん。それを村長に届けてもらえますか? 僕はこいつと話がしたいです。」
「いいぜアーダルプレヒトぉ、行けよ。俺はこのクソ人間とお話ししてるからよぉ」
あの実さえ届けば姉上が助かる。後のことなんか知るかよ!
「よぉー人間よぉ? おめーさっき殺すって言ったな? ありゃあ俺に言ったんだよなぁ? おお? 俺に上等くれたんだよなぁ?」
エルフにもチンピラっているのか?
以前どこかで聞いたような口調だよな。
「うるせぇ。こっちぁそれどころじゃねーんだよ! 勝負するのかしないのかハッキリしろや!」
『葉斬』
いきなり攻撃してきやがった。そっちがその気なら……『氷弾』
残り魔力があまりないんだよな。
のおっ! 私の氷弾がそのまま返ってきた!?
まさかこれは『自在反射』か?
全然できないから放置していた魔法だ。なんて厄介な……
「人間にしちゃあマシな魔法を使うじゃねぇか。だが俺らエルフを舐めんなよ? ほれ、どうした? もっと撃ってこいや」
やろぉ……ミンチにしてやる……『榴弾』
なった。ギリギリ生きてるか。
数百発のベアリング弾のうち跳ね返ってきたのは十発に満たない。エルフも大したことないな。
ちっ仕方ない、連れてってやるか。こちらとしても本当に殺す気なんかないんだから。
そんなことより姉上だ。大丈夫か?




