王都に残された者達
カースが飛び立った後、王都では。
『大変長らくお待たせいたしました! エリザベス選手の試合続行不能により! オウタニッサ・ド・アジャーニ選手の優勝となりましたぁー! それでは表彰式を行います!』
「アレックスちゃん……カース君は今頃クタナツかな……」
「大丈夫よ。カース君なんだから心配したって無駄よ。」
「私もそう思うわ、だけど……」
「それにしてもエリ姉ほどの魔力があっても効く毒なんてあるのね。」
「私も驚いたわ。おじいちゃんですら知らないんですもの。本当に神殺しの猛毒だったら私が欲しいぐらいよ。」
彼女達はエリザベスが心配で表彰式どころではない。アンリエットは敵が減ることを喜んでもいいはずだが。
「ねえ、姉上……もし、エリ姉が死んだら……どうするの?」
「どうもしないわ。ウリエンさんを狙う敵が一人減るだけのことよ。まあ……私の手で勝ちたかったけどね……」
どうやら姉妹揃って素直ではないらしい。
「サンドラちゃん、スティード君。先に帰っててくれる? 少しソルと話をしてくるから。」
「ええ、私達にできることなんてなさそうだし……先に帰るわね。行くわよスティード。」
「うん、じゃあアレックスちゃん。後でね。シャルロットさんとアンリエットさんはどうされますか?」
「私はおじいちゃんの所に行くわ。シャルロットも来なさい。少しでもカース君の罪が軽くなるように動かないとね。」
「姉上……そうよね。私も行くわ!」
「サンドラちゃん! 僕らも行こう! 邪魔をするだけかも知れないけど! それでも……」
「いいわよ。四人でゼマティス卿におねだりしましょうか。」
ソルダーヌの観覧室を訪れたアレクサンドリーネは事情を説明していた。
「あの闇雲の中でそんなことが起こってたのね。あのエリザベスさんに効く毒があるなんてね。やっぱり闇ギルドって怖いのね。」
「そうね。エリザベスお姉さんについてはもういいわ。カースとイザベル様が付いているんだし。それより私達ができることをしないと。カースの減刑嘆願よ。」
「そうね。私とデフロック兄上の名前で陛下に陳情するわ。アレックスも連名でいいわよね?」
「ええ、お願いできるかしら。カースと何年も離れ離れになったら……私……」
「大丈夫大丈夫。カース君って陛下のお気に入りなんでしょ? きっとうまくいくわよ。」
「うん……ありがとう、ソル。」
実況室にて。表彰式も終わりベリンダとアントニウスは、ほっと一息ついていた。
「それでゼマティス卿? カース君は関所破りをして飛んで行ってしまったんですか? クタナツまで!?」
「ああ。よもやあれほどの毒が存在しようとは……必ず殺す蠍の一刺しか、侮っておったわ。」
「幹部を軒並み捕らえて残りはボスだけだったんですよね? それが向こうから現れるなんて……」
「あやつは死ぬ気でエリザベスを、あわよくばカースまで殺すつもりじゃった。そのためにわざわざ参加したと見える。なれば生け捕りは不可能じゃったろうて。カースもよく判断したものじゃ。スティード君もじゃが、やはり小さくても心はクタナツか。」
「普通解毒剤を狙いますよね。毒を使う奴って自分が死なないように解毒剤を持ってるのが定番ですもんね。」
「そうじゃな。しかしあやつは死ぬ気じゃった。自分の死体から解毒剤など見つかっては無駄死にじゃ。まず持っておらぬじゃろうて。そもそも解毒剤が存在するのかも怪しいものよ。」
「あー、いかにも闇ギルドの切り札っぽいですもんね。後先考えない奴って厄介ですよね。」
「さてと、陛下に御目通り願わなくては。ではのベリンダ嬢。そなたとの実況は楽しめた。またこのような催しの際は呼んでくれ。」
「こちらこそありがとうございました! エリザベスの奴、助かるといいですね……」
素直じゃない女がここにも一人。




