領都一子供武闘会 決勝トーナメント一回戦
『決勝トーナメントの予選が終了いたしました! それでは改めて予選を通過した四名をご紹介いたします。シャイナール選手、カジミール選手、エドゥアール選手、フェリクス選手です。以上四名を加えた十六名で決勝トーナメントを行います! ではここでダミアン様より決勝トーナメントについてコメントいただきます!』
『お前達、ここまでよく勝ち残ってきた。三百二十数名のうちの十六名だ。誇っていいだろう。ところで先ほどより観客から「退屈だ」「ぬるい」「もっと撃ち合え」なんて意見をもらっている。そこでどうだろう? 開始は円の中でいいとしてもルールを変えないか? 』
『どういうことですか? 危険なのでは?』
『ここまで残った奴がそんなことを気にするとは思えんが。ではお前ら、ルール変更に賛成なら手を挙げろ。』
十六人中十三人も手を挙げている。マジかよこいつら……あ、スティード君もか。私はもちろん挙げていない。せっかく私に有利なルールにしたのに! ダミアンの野郎……
『よし、お前達の熱い気持ちは分かった。ならば魔法学校の実技試験ルールでどうだ? 開始時は円の中、後は何でもアリだ。おっともちろんポーションの類は禁止だぜ? どうだ会場のみんな! 見たいかー!』
会場からは大きな歓声が上がる。そんなに退屈してたのか……やるしかないか……くっそー。
『それでは勝敗は気絶か降参、または場外に落ちた時とします。決勝トーナメント一回戦の試合順は四回戦の成績に準拠しております。』
「第一試合を始めます。カース選手、フェリクス選手、武舞台に上がってください。」
『フェリクス選手は魔法学校を卒業後冒険者となり主にムリーマ山脈で活動しているそうです。すでに八等星となり将来有望な若手冒険者だったりします。魔法学校を卒業してまで何やってるんでしょうか! さあ対戦するのは四回戦で見事な魔法を見せてくれたカース選手。新しいルールでも対応できるのでしょうか? 相変わらずのオシャレな格好にファンが数名付いたようです!
そんな二人の賭け率は、三対二! わずかにフェリクス選手優勢だぁー!』
おお、私にファンが出来たのか。少し嬉しいな。時折聞こえた「カースくーん!」ってそれだったのか。
『時間となりました。賭けを締め切ります。では決勝トーナメント一回戦第一試合を開始します! 双方構え!
始め!』
彼は剣を抜いてこちらに走ってきた。『風球』
おまけに魔法まで連発してきた。しかし……
『金操』
いつも通り剣を足の甲に突き刺す。そこに『重圧』
彼は武舞台の上に潰れたカエルのように横たわっている。
「降参する?」
「ま、まだだ……」
間髪入れず木刀で頭をぶっ叩く。終わりだ。
『しょ、勝負ありー! またもや瞬殺! 何だこの子は! 何なんだこのオシャレボーイはー!? ダミアン様! 解説を!』
『おそらくあれは金操だ。金属製の武器を使う者にとっては悪夢だろうぜ。しかし問題はあの魔法、魔力消費がとんでもないということだ。風操の数千から数万倍とも言われている。これが後にどう響くか、カース選手の腕の見せ所だろう。』
『しかも倒れたフェリクス選手に何の躊躇いもなくトドメを刺しましたね? あれもクタナツ者の特徴ですかね。さあ第二試合へ行きましょう!』
ここから勝ち上がったのはスティード君、シャイナール選手、ネクタール選手などだった。特にスティード君はこのルールだとかなり強い、私の金操ももうバレてしまったしな。
「一回戦第八試合を行います。テオテア選手、フリードリヒ選手、武舞台に上がってください。」
『さあ決勝トーナメント一回戦もついに最終試合となりました! テオテア選手はよく分からない不思議な魔法で勝ち上がり、フリードリヒ選手はまさに正統派魔法使い! ここまで堅実に勝ちを重ねてきました。そんな二人の賭け率は……五対四! わずかにフリードリヒ選手優勢か!』
テオテア選手は対戦相手が苦しそうにしていたのが気になるな。どんな魔法を使ってるんだ?
『時間となりました。賭けを締め切ります。では一回戦第八試合を開始します! 双方構え!
始め!』
どうしたことだ? どちらも動かない……魔力を溜めているのか?
『風球』
『先に仕掛けたのはテオテア選手! フリードリヒ選手の高そうなローブが風に揺れる!』
『風斬』
円の外に出られるようになったため、魔法が中々当たらなくなっている。フリードリヒ選手はまだ一度も撃っていない。魔力は高まっているようだが。
『風壁』
『水壁』
『おおーっと! テオテア選手、何と大きな風壁をそのまま撃ったー! これにはさすがのフリードリヒ選手も避けられず水壁にて防御! 見えない風壁によく反応できたものです!』
『両者の距離が縮まる! 接近戦だぁー!』
テオテア選手は剣、フリードリヒ選手は杖で斬り合い、殴り合っている。良さそうな杖を使っているな。ん? フリードリヒ選手の顔色が悪いぞ? 呼吸も荒い。
「はぁーはぁー、これは何の魔法だ?」
「秘密に決まってるだろう。降参しないとまだまだ苦しくなるぜ?」
『水球』
『うおー! フリードリヒ選手! その場に巨大水球を作り出し、自分達を閉じ込めたー! これはどうしたことだー!?』
外に出ようともがくテオテア選手、対象的に何もせずじっとしているフリードリヒ選手。水中では魔法が使いにくい。それは自分の魔法の中でも同じこと。フリードリヒ選手は魔法対戦では不利と見て消耗戦に持ち込んだのか?
『さあ、双方脱出はできるのでしょうか? この手の巨大な水球は魔力をたっぷり込めないと作れない厄介なものです。それ故に脱出も侵入も容易にはいきません。果たして二人は無事なのか?』
『なるほど、読めたぜ。フリードリヒ選手がこうした理由、そしてここまでのテオテア選手の勝ち方が。』
『そ、それは!?』
『残念ながら言えないな。試合終了後、テオテア選手が言うか、フリードリヒ選手に考えを語ってもらうか。その辺に期待しておこうぜ?』
ダミアンの奴もったいつけやがって。勝敗を左右するだろうから言えないのか。真面目に解説してやがる。
『水球の壁面を叩くテオテア選手! しかし壊れない! フリードリヒ選手も脱出方法は用意してあるのかー!』
『普通に考えてフリードリヒ選手はこの魔法を解除できるだろう。しかし今は我慢比べの最中。こうなったら根性の勝負だな。』
一分が経過。テオテア選手の体から力が無くなっていくようだ。一方フリードリヒ選手は変わらず微動だにしない。
『安全のため、こちらで勝敗を判断いたします。双方拳を握り上に掲げてくたさい! 出来なかった方の負けです!』
フリードリヒ選手の手は悠々と挙げられた。
テオテア選手は反応がない。
『フリードリヒ選手の勝利といたします! フリードリヒ選手、魔法を解除してください!』
水球が解除されると、武舞台から大量の水が流れ落ちてきた。母上がキアラの魔法を解除した時とは随分違うな。あの時は蒸発したかのようになくなったものだが。
『決勝トーナメント一回戦が終了し、残りはとうとう八人! これなら暗くなる前に終わりそうです! それではここでアレクサンドリーネ嬢よりコメントをいただきます。』
何とアレクは『浮身』を使い武舞台に降りてきた。魔道具越しではなく、目の前で挨拶をするようだ。手にはマイクらしき物を持っている。ミニスカートで降りてきたものだからドキドキだったぞ。
「みなさん、よく勝ち残ってくれました。私と大金貨とペア宿泊券、手に入れるのはどなたなのでしょう? じっくり拝見いたしますので、恥ずかしくない戦いを期待しております。」
挨拶を終えたアレクは一礼して隠形と浮身で素早く武舞台から姿を消した。ミニスカートと相まって会場は大盛り上がり。絶妙なタイミングで餌をまくものだ。ダミアンめ。




