カースの入学2
髪をかき上げながら声をかけてきたのはアレックスだった。
「マーティン君だったわね。貴方さっき面白いことを言ってたわよね。狼ごっこ無敵とか。あれは私に対する挑戦よね? 受けて立つわ!」
できる女は行動が早い!
ふふふ、面白い!
「やあアレックスちゃん。挑戦じゃないよ。お誘いだよ。一緒に狼ごっこしようよ。」
少々馴れ馴れしいが子供なんだし別にいいだろう。付かず離れずを決意したことなど忘れよう。
「むむっ! 初対面で愛称呼びとは……さすが好色騎士アラン卿のご子息ね。しかもお誘いだなんて……」
マジか、父上ってそうなのか。いや、若い頃の話かも知れない。
「公職? 騎士はみんな公職なんじゃないの?」
五歳に好色の意味を理解できるわけないだろ。まあ公職もなお理解できそうにないが。
「騎士はみんな好色ですって? そんなことあるわけないわ! そんなの王都の西や南方の騎士だけよ!」
そうなのか。
「ふーん。そんなことより狼ごっこしないの? みんなでやらない?」
「み、みんなでやる、で、ですって!? 何て破廉恥な!」
だめだコイツ、五歳でどんな発想してんだよ? 姉上に近いのか……
「はれんち? って何? 狼ごっこやらないの?」
「そ、そうよね! 狼ごっこの話よね! もちろんやるわよ! 明日の放課後よ! 他に誰か呼んでもいいのよ!」
「うん、みんなでやろうね!」
やっぱり友達がいないのか。セルジュ君達に声をかけておこう。
「じゃあアレックスちゃんまた明日ね。僕のことはカースでいいよ。」
「ふふん、いい心がけですわ。カースと呼んであげます。ではまた明日、御機嫌よう。」
呼び捨てかよ! 確かにそう言ったけど!
今度こそ帰ろう。父上とマリーが待っている。
「父上お待たせー。ちょっと話し込んじゃった。」
「おおーもう友達ができたか。えらいぞ。
セルジュ君達以外なんだろう?」
「うん、アレクサンドリーネちゃんて言う女の子。アレクサンドル家だって。明日狼ごっこするの。」
「おっ、女の子とはやるじゃないか。しかもアレクサンドル家ってことは騎士長の娘さんだろうな。」
「へー、アレックスちゃんも父上を知ってたよ。こうしょく騎士なんだって。父上は有名なんだね!」
「う、うむ、昔のアダ名だな。大昔のな。」
さすが俺の息子、初日で騎士長の娘と仲良くなるとは。まああのオッサンは堅物だからな。娘もどうせガチガチの貴族娘なんだろうな。何にしてもカースが楽しく過ごせそうで安心だ。




