勇者とカース
ふう、雨にも負けず帰ってきたぜクタナツへ。
「ただいまー。」
「あー、カース君おかえりー!」
元上級貴族のベレンガリアさんだ。何の因果があって下級貴族宅なんかでメイドをやってんだろうね?
「気になってたんだけど、リトルウィングはどうしたの? 解散ってさ。」
「メンバーが死んだからよ。ヒャクータが魔物に襲われてね。それにビビったジェームスが抜けたの。私とオディロンだけじゃどうにもならないから解散ってわけ。」
そうだったのか……
オディ兄としては冒険者をやる目的は既に果たしているのだから問題ないか。
「カースおかえり。召喚魔法はどうだった?」
「母上ただいま。参ったよ。あれから召喚魔法をやってみたらさ、魔力が全部なくなっちゃったんだよ。それで一日近く倒れてたんだよね。」
「ええ? 何よそれ? そんなの聞いたことがないわ。どんな子が来たの?」
母上ですら知らないのか……
「白い狼だったよ。コーちゃんとも仲良くしてくれてるんだ。あと、具現化? してるらしいけど、何それ?」
「具現化ですって!? なるほど……そうなのね。本当にカースはもう……」
「知ってるの!? もう魔力はいらないらしいんだよね。」
「勇者に関する話よ。せっかくだからマリーに聞いてごらんなさい。詳しいから。」
「分かった! 行ってくるね!」
勇者関連? マリーに会うのも久しぶりだからちょうどいいか。
「カースったら……」
「奥様、どうしたことですか?」
「またカースがやらかしたのよ。あの子の魔力はもう勇者並み、いやそれ以上らしいわ。」
「勇者以上ですか!? 白い狼がそんなに凄いんですか?」
「いいえ、ノワールフォレストの森近辺で呼んだのなら何色の狼が来てもおかしくないわ。金狼でもね。問題は『具現化』よ。それができたのは歴史上勇者とその仲間のみ。」
「具現化ってあれですよね? ただ呼ぶだけの召喚魔法と違って莫大な魔力と引き換えに魔物の全能力を余すことなく使えて、忠誠も誓ってくれる。帰ってくれない代わりにいちいち魔力も減らないやつですよね?」
「そうね。初召喚時に死ななければそうなるわね。カースのことだからこの可能性も少しは考えてはいたけど、まさか本当に呼んでしまうとはね。勇者以上と言ったのはね、勇者は召喚魔法で白い狐を呼んだらしいわ。でもその後、一週間ほど意識を取り戻さなかったそうよ。」
「そんなことが……奥様はそんなことを一体どこでお知りに……?」
「うふふ、内緒。ただの冗談かも知れないわよ? そんなことよりアランの武勇伝を聞かせてあげるわ。知りたいんでしょ?」
「ぜひ!」
マーティン家は一体どうなっているのか……




