サヌミチアニの独立
その知らせはクタナツを震撼させた。
辺境のみならず、王国にて最強と謳われるクタナツ騎士団の一部隊が全滅したのだ。生き残ることを何より重視する騎士達が一人も帰ってこれなかったのだ。
確かに今回の部隊は最精鋭ではない。経験を積ませるための遠征に近いものであり、平均年齢も二十代前半と若者が中心となっていた。それでも辺境の厳しい環境、強力な魔物を相手に生き延びてきた者達だ。
その上、全滅の報から遅れること三日。サヌミチアニがローランド王国から独立を宣言したとの知らせが入った。
再び戦乱の時代が始まってしまうのだろうか。
代官府にて。
「騎士長よ、どう考える? 将来ある若手を全滅させられたことは痛い…….だが領都騎士団が本気になったらサヌミチアニなどひとたまりもない。それなのにわざわざ独立を宣言したこと……解せぬ。」
「私もです。何らかの罠にかけて全滅させたのでしょうが、そのようなものが何回も通用するはすがありません。」
「ふむ、尤もだ。まずは辺境伯殿のお手並み拝見となるが、クタナツとしても黙ってはおれん。報復が必要だ。サヌミチアニにではなく、ヤコビニ派にだ。」
「御意。暗殺者でも送り込みますか?」
「うむ。それもだが、賞金をかける。奴らの首魁ヤコビニ・ド・アジャーニを始め子や孫に至るまで全員だ。全面戦争になるな。南の領境を固めねばなるまい。」
「御意。私は攻め込むことは反対ですが、敵を誘き寄せるのならば賛成です。あやつらが激昂してクタナツまでやって来るといいですな。」
その日の昼にはクタナツ中に布告が出された。
『指名手配
以下の者を捕らえたる場合、賞金、地位、領地いずれかを与えん。生死は問わない。
・ヤコビニ・ド・アジャーニ 白金貨十枚または男爵位またはバランタウン代官位
・子世代 白金貨一枚または騎士爵位または辺境の村
・孫世代 生け捕りのみ 大金貨五枚
・サヌミチアニ占領軍幹部 大金貨一枚』
なお金貨百枚で大金貨一枚、大金貨十枚で白金貨一枚である。
ギルドでは、
「おい聞いたかよ! 盆暗貴族をぶち殺して貴族になれるぜ!」
「おおチャンスだな! 早い者勝ちだがよ」
「暗殺者もかなり放たれるらしいな」
「マジかよ! やばいな!」
「そもそもどこに居るんだよ?」
「そんなもんアブハイン川の流域じゃねーの?」
「俺ぁサヌミチアニを狙うぜ」
「俺はヤコビニだな。どうせあっちに用があるからよ」
「まあよー、あいつら前からクタナツを舐めてやがんだよな。こいつぁメチャ許せんよなぁ」
「おお、ぶっ潰しくれてやろうぜ」
そしてカースは自宅にて。
「オディ兄達のパーティーはヤコビニ派を狙ったりする?」
「いやいや、しないよ!? そんな大それたことしないよ! 命がいくつあっても足りないよ!」
「そっか。しないんだ。居場所が分かれば簡単に捕まえられそうだと思ったけど。難しいね。」
「はっはっは。カースらしいね。でも一体どこにいるんだろうね。」
白金貨十枚なんてゲットしたら確実に一生働かなくて済む。濡れ手で粟の大金を狙うのも当然だ。スパラッシュさんに相談してみよう。あの人なら何か知ってるかも知れない。
「ちょっとギルドに行ってくるね。」
そしてギルドに来た私はスパラッシュさんを探す。今日の夜は立ち寄ると聞いているのだ。いた!
「スパラッシュさーん! 相談があるんだよー!」
「おお坊ちゃん。どうしやした?」
「例のあれ。ヤコビニを狙いたいんだけど居場所とか知らない?」
「坊ちゃん……よく言いなすった。実はあっしも最後の仕事に相応しいんじゃないかと狙うつもりだったんでさぁ。坊ちゃんとなら百人力ですぜ!」
やった! スパラッシュさんと組めば間違いない! やってやるぜ。散々悩まされたストレス解消と働かない人生ための犠牲になってもらおう。




