代官とダミアン
厳戒体制が始まって一週間。
週末の昼過ぎ。
警らに出ていた騎士の一団が西からの軍勢を確認した。
いや、軍勢と呼ぶには少なすぎる。それは三十にも満たない騎士の集団だった。先頭には辺境伯家の旗が見える。攻めて来たにしては少ないが、伝令にしては多い。
一際立派な馬車には辺境伯家の家紋が付いている。ならば乗っているのは?
クタナツの騎士は一人を伝令で戻し、残りで応対することにした。すでに全員抜剣・抜槍している。
「そこで止まれ! 用件を承る!」
クタナツ騎士は十人程度。戦えば勝てないかも知れない。しかしここは引けない。先触れも出さない一団を通す訳にはいかないのだ。」
馬車の戸が開き、何者かが一人でこちらに歩いて来た。
「そこで止まれ! 用件を承る!」
再度クタナツ騎士は警告した。
「俺はダミアン・ド・フランティア。辺境伯の三男だ。今回の件で代官殿に謝罪申し上げに来た。こいつらは護衛だ。」
「いいだろう。一人でこちらに来て、証を見せていただこう。」
ダミアンはそのまま歩いた騎士達に近づいていく。どこか余裕を感じさせる歩みだった。
「これを見てくれ。」
ダミアンが差し出したのは辺境伯からの書状、詫び状だ。
「これを代官殿に渡して欲しい。その後で叶うなら面会を希望する。」
「渡すことは了解した。面会が可能だとしてもクタナツに入れるのは貴殿一人となるがよいな?」
「ああ、望むところだ。」
「では城門前までこの距離を保ったまま付いて来ていただこう。」
クタナツ騎士達の後に領都の騎士達は続いた。およそ五十メイル程度の距離を保ちながら。
城門前ではクタナツ第一騎士団が勢揃いで彼らを出迎えた。
「代官がお会いになる! ダミアン殿だけ入られよ。」
それには領都の騎士達も黙っておれなかったようだが、他に方法はないとダミアンが説き伏せた。
そして代官府、代官執務室。
「よく来たな。私が代官アジャーニだ。」
「ダミアン・ド・フランティアです。お目通りをお許しいただきありがとうございます。」
「書状は読んだ。領都としては敵対する気はないそうだが、君としてはどうなんだ? まだアレクサンドリーネ嬢が欲しいか?」
「いえ、弟ディミトリをこっ酷くやりこめた少年に興味が湧いただけです。ああ、そうそう。こちらをお納めください。」
ダミアンは魔力庫から生首を取り出した。
「父、辺境伯自ら落とした弟の首です。誠意の証として欲しいとのことです。」
「ほう、鋭い剣筋だ。衰えておられないようだな。いいだろう。クタナツへの落とし前はついたとしよう。」
「ありがとうございます。」
「で、アレクサンドリーネ嬢と少年への落とし前はどうするつもりかね?」
「申し訳ないことに何も考えておりません。お会いすることは可能ですか? それから考えたいと思ってます。」
「いいだろう。彼の意志は後ほど伝える。それまでは部屋を用意するのでゆるりと過ごしてくれたまえ。」
ダミアンは一先ず命拾いをしたようだ。また代官も戦争にならずに済み、辺境伯の判断に感謝していた。




