平穏な日々と新任の代官
今日も今日とて魔力放出だ。
最近はただ放出するのがもったいなくて箱の中に集めたり、革袋に集めようとしている。
しかし魔力は気体ではなかったようで、箱も袋も透過してしまって集められない。
そこで別アプローチ、庭の木に流し込んでみた。
母上が私に経絡魔体循環を施すように木に魔力を流し込んでみた。変化などないが、木は透過しなかった。箱と木の違いがよく分からないが、生きてるかどうかの違いなのか?
でもまあ所詮は木だしな。しばらく続けてみるのも面白いかも知れない。
他には放出した魔力を手の周辺に留めておけないか試してみたが、今のところできない。
煙を空気中に留めておけないのと同じかも。
また、地面に流してみたが、特に変化はない。しかし大気中に湧き上がってはこなかった。
経過が気になるので、地面の同じポイントに流し続けてはいるのだが。
しかしそんなことはただの副産物だ。大事なのは体内の最大魔力が増加しているということだ。
始めた頃は全力で放出したら二十秒ぐらいで空になっていたが、今では一分ぐらいかかる。しかも放出の速度が段々と上がっているにも拘わらずだ。
これに関しては到達目標はない。だから気楽にできるというものだ。
次の誕生日にはどれだけ母上が驚くことやら、ふふふ。
そうそう、魔物の襲撃だが冬虫夏草のやばいバージョンのキノコが原因らしい。
正確には分かってないようだが、その説が有力らしい。やはり魔境は怖いな。
「原因は特定できんか……」
「申し訳ありません代官閣下。全て焼き尽くしたため、進行ルートも途中までしか特定できておりません。」
「ふむ、それは前任者の指示らしいな。無能を責めても仕方なきことよ。冒険者もろくな証拠を持ち帰ってないらしいな。」
「そ、そうです。ヘルデザ砂漠まではルートの特定ができたそうですが、そこで途切れていたそうです。」
「ふむ、もしもパラシティウムダケが原因でないとしたら他にどんな可能性がある?
魔境の恐ろしさを考えれば他にあのように魔物を操る何かがいてもおかしくなかろう。
前任者はそこまで踏み込んでいたのか?」
「申し訳ありません、私、魔境のことはあまり分かっておりませんので詳しい者に聞いて参ります。また、他の可能性につきましては仮説はいくつかあったようですが、全て可能性がないとのことでした。」
「そうか、ならばよい。後でその経緯が分かる書類を持ってくるように。」
「御意にございます。」
新任の代官、レオポルドン・ド・アジャーニ子爵である。
名門アジャーニ公爵家の出でありながら以前より辺境に赴任することを熱望していた。
地位に拘りはなかったし、クタナツでなくとも領都でもよかった。しかし本人の希望と公爵家の面子がようやく釣り合い、クタナツ代官として赴任した次第だ。
収まらないのは若い騎士達だ。
彼が前任のフィリップを無能と扱き下ろす場面を何度か見ているためだ。彼は辺境を志すだけあって無能とは程遠い人間である。
それだけに他人のアラが見えて仕方ないのだ。また、歯に衣着せぬ物言いをするため公爵家の七光りと思われているようだ。
彼の任官はクタナツにとって吉となるか凶となるか……




