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父との遭遇

さて、お腹も膨れたしお待ちかねのお風呂タイムだ。どんなお風呂なんだろう。


この世界の風呂は石造りなのが一般的だ。

私の湯船は鉄だし、そもそも一般家庭に風呂などない。

それがなんと、ここの風呂はなんと木製だ。これが贅沢というものか。


メイドのサラさんによると魔境の遥か北、ノワールフォレストの森の東部に生息するマギトレント製らしい。


この木材の効能は。

・お湯に魔力回復効果が現れること。

・お湯の清浄作用があること。

・お湯の保温効果があること。

ついでに香りでリラックス効果もありそうだ。これは欲しくなったぞ。マギトレントを倒すのも運ぶのも難しくはなさそうだが、発見するのと加工するのが私にはできない。


まあそんなことはまた今度考えよう。

魔力回復効果があるなら魔法を使いながら入ってみようかな。

魔力庫にしまい込んだままの鉄製スノボを金操で動かして団扇代わりにする。いい汗をかいているのでとても涼しい。風操で充分なのにわざわざ金操を使うのがポイントだ。


しかしこの程度では魔力消費が少な過ぎて回復効果を実感できない。そうなるといつもの鉄の塊、通称『鉄キューブ』を出そう。コツコツと大きくしていったので、もう百キロムはあるだろう。

これを魔力庫から出し、床を傷つけないよう常に浮かせておく。これはキツい。グングン魔力が減るのを感じる。


この感じではあと一時間と持たない。いい修行になりそうだ。


あまり長風呂をするわけにはいかないので、負荷を追加する。私も鉄キューブの上に乗り、そこで体を洗う。我が家にも石鹸はあるが、ここの石鹸は高級品に違いない。何が違うのか分からないが、いい香りがするのだ。

そして温度を上げた水球(みなたま)で全身を洗い流す。同時にいくつもの魔法を使うのもいい修行だ。さて、無茶な使い方をしたせいで魔力が半分は無くなった。


今から回復タイムだ。


普段なら元気な時で八時間ぐらい寝れば全回復だが……約十五分で一割が回復した。これはすごい。

魔力ポーションは体に悪いらしいが、これは問題ないのだろう。ますます欲しくなった。

よし、詳しい情報を聞いておこう。




そろそろ上がろうと湯船を出た時、誰かが入って来る音がした。まさかアレックスちゃんか?

慌てて鉄キューブと鉄スノボをしまい込む。


現れたのは筋骨隆々の偉丈夫だった。

頭髪は丸刈りにされており威圧感がすごい。きっと父親だ。夫婦揃って怖いじゃないか。


「お先に失礼します。いいお湯でした。」


ここは風呂だし長居は無用、挨拶は後ほどだな。


「待て、まだ上がるな。男同士裸の付き合いと行こうではないか。」


「喜んで。ご挨拶が遅れました。お嬢様と同じ一組のカース・ド・マーティンと申します。」


「うむ、私は父親のアドリアンだ。君のことはよく聞いている。優秀なくせに変人だそうだな。」


「優秀かどうかは知りませんが変人であることは自覚しております。納得はしておりません。」


たわい無い話が続く。そろそろ熱くなってきたぞ。


「では僕は上がりますね。そろそろ逆上せそうなもので。」


「まあ待て。妻によると君はアレックスの好意に気付いているのだろう? どうするつもりだ?」


「困っております。憎からず想っておりますが、所詮僕は騎士の三男、どうなるものでもないかと。」


「ふむ、やはり変人と言うのは本当か。我がアレクサンドル家はローランド王国建国より続く名門、私は本家嫡流ではないがそれでも縁を求める者は後を絶たない。

アレックスとて領都にいた頃は大勢の友人に囲まれていた。当時の自宅にはたくさんの人間が遊びに来たものだ。それがクタナツでは誰も来ない、君が初めてなのだ。これは弟のアルベリックも同じことだがな。」


「はあ、まあここはクタナツですからね。そんなものかと。弟さんに友達がいないのであればそのうち妹でも連れてきましょうかね。案外仲良く遊ぶかも知れませんよ。」


「ほほう、また来てくれると言うのか。」


「できれば遠慮したいですね。我が家に遊びに来ていただければ解決ということで。」


「で、アレックス以外に意中の女性でもいるのかね?」


ちっ、話題逸らし失敗か。


「もちろんいません。」


「君は男に生まれて権勢や地位に興味がないのか? 上り詰めたいとは思わんのか?」


「今は興味がないですよ。九歳になったばかりですし。」


「ならば聞かせよ、望みは何だ? 何になりたい?」


言いたくないな。困った……

いや、これはチャンスだ!

秘蔵していた個人魔法を実験してみよう。


「秘密にして欲しいんです。誰にも言わないことを『約束』していただけますか? この約束のことも含めて、どのような手段を用いても外に漏らさないことを。」


初使用だ。罰則なしだが上手くいくだろうか。


「いいだろう。約束しよっうっ、ぬっ! 今のは契約魔法か!?」


効いたかな。


「そうです。まあ罰則を設定しておりませんので、破ることも可能かと。」


「全く、初対面で契約魔法をかけるとは無礼な小僧だ。まあいい、では聞かせてもらおうか。」


「両親にすら言っておりません。『金貸し』をやるつもりです。必要な技能は習得しつつあるつもりです。」


「何? 金貸しだと? 君は騎士の子供だろう? それが金貸しをすると言うのか?」


まあこうなるよな。


「金貸しです。いつから始めるかは未定ですが、おじ様が金主になってくれるのであれば大歓迎です。」


「理解できないな。優秀な変人と言うのは本当らしい。残念ながらアレックスとの将来は認められないな。」


「当然かと。もし私が彼女に恋い焦がれたらクタナツを更地にしてでも拐うとは思いますが、今のところそんな気はありません。」


「金貸しをするのならますますアレクサンドル家との縁が必要ではないのか?」


「そうかも知れませんね。その時は良しなにお願いします。では今度こそ上がりますね。」


ふぅ、長い風呂だった。

魔力は結構回復したが、精神がすっかり参ってしまった。

初めて来た家で一番風呂をいただいた上に、そこの父親が入ってくるとは。

その上重い話をしてしまった。

どうなることやら。

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