グリードグラス草原の開拓
クタナツ代官府では、代官であるレオポルドン・ド・アジャーニ子爵が財務長と相談をしていた。
「絶好の機会のようだな。」
「御意。方法としましては普通に城壁を築き石畳を敷くべきかと。」
「うむ。原因が魔女だろうが化け物だろうが構わん。この機会を逃すべきではないだろう。総力を挙げる! 予算を使い切っても構わん。冒険者を総動員し草原でないエリアを広げる。少なくとも西半分は制圧せよ!」
「御意。騎士団はどの程度動かしましょう?」
「第三騎士団のみ残す。ひとまず補給基地としてグリードグラス草原とクタナツの中間地点に砦を築く。魔法使いも総動員だ。クタナツだけではない、フランティア中に呼びかけるのだ。辺境伯殿には私から援軍をお願いしておく。」
「御意!」
レオポルドンは燃えていた。ここ百年停滞していた魔境の開拓が一気に進もうとしているのだから。
初代辺境伯がフランティア領都周辺を開拓したのがおよそ二百年前、そこからサヌミチアニ、ホユミチカを開拓し、最後にクタナツができたのが約百年前である。
それ以来グリードグラス草原とその手前の荒野に阻まれ開拓が進むことはなかった。
それ以外にも原因はあるのだが、そのためにも急いで進める必要がある。
そんな時、あっさりと希望が見えたのだ。
偶然の出来事をあてにするわけにはいかないが、この機会を逃すわけにもいかない。
王国貴族として国王に忠誠を誓っているレオポルドンは、何の役にも立たないどころか足を引っ張り合うだけの貴族達を嫌悪している。
幼い頃に若き日の国王と面会したことで貴族の義務を自覚したのだ。
貴族とは、弱く愚かな民を守り導くものだと考えている。そのため王都でぬくぬくと暮らすことを良しとせず辺境を志していた。
それがやっと実を結ぶ目前なのだ。
これから始まる一大事業にレオポルドンは身震いしていた。
相手は魔境。どんな不測の事態が起こるか分からない。不退転の決意を新たにするのだった。