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十月十一日、朝

カースがフェルナンドによって救助されクタナツに戻ってから二時間後、太陽が昇り朝が来た。


サイクロプスの咆哮の面々はいかにも夜を徹して逃げ帰ったかのような様相で城門をくぐる。門番とは他愛ない挨拶をしてギルドに向かった。


「おはようございます。いや、おかえりなさいですかね? 予定より随分早いお帰りで。」


「はぁはぁ、た、ただいま。大変だったんだ。聞いてくれよ。」


「はぁ、どうされました?」


「トロルだ! トロルが現れやがった! それで逃げてたら他のパーティーが助けてくれたんだ! あれは多分『リトルウィング』だ!」


「そうですか。よくあることですね。で、依頼の品はどうしましたか?」


「それどころじゃなかったんだよ! 助けに行かないと!」


「それには及びませんよ。皆さん帰られていますので。それを考えると随分遅いお帰りですね?」


「はぁ!? 俺達は夜通し歩いてやっと帰って来たんだぞ? そりゃあ最短距離を帰ってきたとは思わないが。」


「それは私どもの関知するところではありません。では依頼は未達成でよろしいですね? それとも期限までまだ時間がありますので再び行かれますか?」


「ああ、だが今日は帰る。リトルウィングが無事で何よりだ。」






サイクロプスの咆哮の面々は理解が追いつかない。どうやったらあれだけの道のりを自分達より早く帰れるのか。もし自分達が全力で走ったとしても日没までに到着できなかっただろう。


この時、ベレンガリア率いる『リトルウィング』は全員が治療院にいた。しかし、一人として目覚めた者はいない。全員が未だに意識を失っているのだ。

ギルドには騎士団経由で彼女達が帰ってきたことだけは連絡が届けられたが、詳しい事情までは届いていない。先ほどのサイクロプスの咆哮のリーダー、ビダッシュの報告で大まかな事情が知れたわけだ。




アランは昨夜からずっと治療院にいた。フェルナンドによってカースが運び込まれたからでもある。

イザベルは自宅で深く眠っている。限界を超えて魔力を使ったためにいつ目覚めるとも知れない。

フェルナンドもすでに宿に帰っているし、マリーもマーティン家に戻ってキアラの世話をしていることだろう。

ここでアランにできることは何もない。ただ、子供達が生きていることを喜ぶのみだ。


なお城門を通らず街に出入りすることは『関所破り』と呼ばれる大罪である。

フェルナンド達はマリーの『浮身』と『隠形』によってひっそりと城壁を飛び越えたのだ。

オディロンの右腕を追求されるとカースの関所破りがバレてしまう。治療院の魔法使い達はオディロンの右腕がなかったことを覚えているだろう。しかし繋がった右腕の出所など分かるはずもない。そもそもカースがわずか一時間余りでグリードグラス草原まで行って帰って来たなどと誰も信じるはずがないのだ。


それでもアランは全員の意識が戻るまでここを動くつもりはない。何かを警戒してるわけでもない。しかし気になるのだ。ここを離れてはならない予感が。




治療院に交代の魔法使い達が出勤してきた頃、アランはカースの治療を依頼する。

フェルナンドによって救出されたカースではあるが、マリーによる簡単な治癒魔法を受けたのみなのだ。

魔力は枯渇しており、体力も使い果たし、そこそこの高さより高速で落ちた上にゴブリンによる噛み跡が無数にある。しかも口元には大量の不潔なゴブリンの血。恐らくは、いくらか飲んでしまっていることだろう。

もちろん見た目だけはきれいにしてあるが、危険な状況に変わりはない。


アランはカースの状態を詳しく説明し治療を懇願していた。


「なっ、何ですかこの子は! 何をしたらこんな状態になるのですか!」


混乱する治癒魔法使い。しかし状況はすでに説明した通り。アランとしては治して欲しいだけなのだ。

また、すでに魔力ポーションを一本飲んでいることも忘れずに伝える。


「分かりました……全力を尽くします。」


街の外に出た記録のないカースがこのような重傷に陥ったことは大いなる矛盾である。

イザベルが万全だったなら迷わず自宅に連れ帰っていただろうに。


しかしそんなことはカースの命に比べれば些細なことだ。いざとなればアランは自分が責任を取ればよいと考えている。それがどのような重罪であろうとも……

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