カースの水泳教室
そしてデメテの日、午前九時ぐらいからみんなが集まり始める。ちなみに御者達は一旦帰った。夕方にまた来るのだ。
私はこの日のためにプールを少し改良した。
深さの違う場所で溺れないよう仕切りをつけたのだ。
もちろんキアラとセルジュ君の妹シビルちゃん用だ。この二人に泳ぎを教えるのは後、それまではマリー監視のもとで水遊びをしててもらう。
一方私達は深さ一メイルの方で泳ぎを練習するというわけだ。
みんな泳ぎ方を知らないので、まずは実演だな。平泳ぎをやってみせよう。
「さあみんな、まずは今のように手足を動かしてみよう。とりあえず顔は水につけずにね。」
小学生に水泳を教えるのとは随分違う。
このメンバーは身体能力も理解力も高いので、あれこれ言うより見せた方が早いのだ。
こうして昼食までに全員顔を浮かせたまま平泳ぎができるようになった。
やはり貴族は違うね。
「いやー外で水遊びってイメージが悪かったけど、やってみると面白いよね。妹も連れてきてよかったよ。」
「そうでしょー。分かってくれるよね。つまり僕は変じゃないんだよ。」
「違うわよ。カースが変なのは変わらないわ。私達が変人の世界に入門してしまったのよ。」
「そうよね。私達もすっかり変な世界に来てしまったわよね。カース君のせいよね。」
「そっか。じゃあみんな変なんだね。古い格言に『裸でもみんなで歩けば怖くない』ってのがあるから問題ないよね。
それはともかく、これで僕達がいきなり川とかに落とされてもそのまま死ぬ危険は減ったね。他にはどんな危険に備えておくべきだと思う?」
「やっぱり魔物かな? クタナツの城壁内は安全だけど外は危ないよね。」
やはりスティード君は現実的だ。
「魔法の暴発とか? 僕等はまだ子供だしね、制御が甘いこともあるもんね。」
セルジュ君は時々真面目なことを言う。
「私達は貴族だから跡目とか他家との関わり?」
さすがはアレックスちゃん、クタナツ最上級貴族は伊達じゃないね。
「色々あるわよね。クタナツって危ない所だけど私は好きだわ。いい所だと思うし。」
サンドラちゃんはやはり淑女だなぁ。
「うんうん、色々あるよね。聞いておいて何だけど、特に意味はないんだよね。話題として聞いただけ。」
「ふふふ、何よそれー? カースらしいわね!」
「わざわざ聞いておいて意味ないって! せっかく真面目に答えたのに!」
「いや、きっと普段から危険を意識しておくことが大事なんだよ。カース君は本当はそう言いたいんだと思うよ。」
さすがスティード君! 実は私もそう思っていた気がする。きっとそうだ!
「ふっふっふ、スティード君にはバレてしまうね。そうなんだよ。説教臭くなるから言わなかったけど、普段から危険を意識しておくことは大事なことなんだよ。
世の中には水と平和がタダって言う素晴らしい国があるらしいけど、ここは違うもんね。」
「さすがカース! やはり考えてることが違うのね!」
「アレックスちゃんって将来悪い男に騙されそうで心配だわ。カース君、責任取りなさいよ。」
サンドラちゃんが何か言ってるが聞こえない。私は都合のいい耳も持っている。
昼からは妹達に泳ぎを教える予定だ。
こちらは時間がかかりそうなので、じっくりやろう。
それにしてもあれだけ拒否していたのに服を着たままだとあっさり参加してくれたな。
だがこの分だと水着文化は浸透しないのだろな……残念だ。
さらに残念なことに材質のためか服のまま水に入っても透けることはなかった。
それにしても、こうやって童心に返りみんなでする水遊びの何と楽しいことか。まあ私達っていつも童心のような気もするが。
いやー、楽しい一日だった。