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Cafeteria

作者: 一色春

自転車に乗って喫茶店に向かう間、何度も思い出していた。

「人は誰もが等しく人間」そんなことは当たり前に分かっている。それが分かっていて、変われない自分を何度嫌悪したことか。私以外のみんなはそれを当たり前に分かって、毎日をこなしているのだろうか。そんな当たり前に馴染めない私も等しく人間なのだろうか。

世界は、そんな私でさえも多様性という言葉で包み込んで、私を認めてくれるだろうか。

自転車を漕ぐ、風を肌で感じる。

私はさっきいた場所よりも少し前進していて、それで私の意識は時間を認識する。

時間は不可逆で、今をどんなに一生懸命に生きても物足りなくて。やり直しがないことを悔やむ。それでもやっぱり人生は一回で、それなら本当にやりたいことだけを。

たった一度の貴重な人生なんだから。


気がつくと喫茶店にいて私の前にはコーヒーがあった。

完全な人間なんて存在しない。欠点こそがその人の個性なら、完全とは個性を失わせ個性がないという欠点を生む。なら私の不完全さは個性という事になるのか。人間が人間らしく生きるには欠点が必要であり、故に人間は1人では生きていけない事になる。

コーヒーを一口飲む。

私たちはいつでも相互作用の中で生きている。持ちつ持たれつなんだ。助けては、助けられる。そうやって生きているはずなのに、私は1人で生きている様に錯覚する。だからやりたいことだけをやってきた。けれどそれは間違いだったのだろうか。生きていくのは、「難しいよく分からないルール」の中で生きていくということ。いつのまにか、私はそのルールに同意したことに。


何気なく見た喫茶店の、窓の外には映画の広告がビルに映し出されていた。

私の目に写る全てがこの世の全ての様に感じていた。私の知ることだけが本物だと。だけど私が生まれてから得た、数少ない経験も知識も常識もこの世のわずかでしかない。私は何か結論を出すには何も知らなすぎる。

この目に写る全てが正しいとは限らない。目から入った情報は脳によって処理され意識される。脳がどんな処理をしているか確かめる術はない。私の脳が間違っていないという保証もない。

外の映画の広告は有名なSFの最新作で、それを眺めていた。

科学さえも全て正しいとは限らない。本当は神様も悪魔も幽霊もいて、今までの科学はたまたま整合性が保たれていただけで、明日からは全く当てはまらなくならない可能性はない。科学が正しいという根拠はない。きっとそうだ。人が生まれ生きるということは奇跡で。私の人生は奇跡の連続で科学の計算なんかでは予想できない様な未来が待っている。運命なんて言葉は信じない。


ふと、喫茶店のBGMで流れるピアノも音が耳に入る。

この世界ではみんなが早足で歩く。いやになるほど前しか見ない。でも前にはいつもだれかの背中があるだけで、それだって見たいわけじゃないのに追いつかなくちゃいけない様で。立ち止まることなんて許されない様に、そう教えられて生きたからそうしたのに。まだなにか足りないの?少し休憩が必要なだけなのに、不満そうにこっち見ないで。もう、だったら、ほっといて。

ピアノの音をもっと大きくして欲しかった。

漕ぎ始めた自転車が倒れない様にするには漕ぎ続ける。そんな世界。

それでもやっぱり、私は立ち止まる方を選ぶだろう。たとえ認められなくても。

「誰かのために生きる。」そんな素晴らしいことはない。けどそれで私が私でなくなってしまうなんて、絶対に嫌で私は私のためだけに誰かのために生きたい。


喫茶店で、「短く貴重な奇跡の様な人生なんだ。なら、やりたいことをするのは当たり前のように思う。でも季節は私なんかのためではなく、等しく全ての人のために巡る。私のために生きる誰かがいるなら、誰かのために生きる私がいなくては。」そう思った。


季節は春ですか? -Is 四季 春?-

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