消えた指輪と殺人鬼
始まりは小さな依頼だった。
「最近物がよく無くなるのよ。それに主人から貰った大事な指輪まで無くなってしまって…なんとか原因を突き止めて下さらない?」
「ウィ マダム。ちなみにどのくらいの頻度で?」
私達はよくあるナクシモノの依頼を受けていた。
依頼主は社長夫人の方で名前はニーナ=ベリル数日前になくした指輪を探している。
おっと自己紹介が遅れたね。僕は探偵助手のアルル。とある探偵事務所で住み込みのアルバイトのようなことをしている。
そして彼はヨアン。私立探偵であり僕の先生でもある。
「どうですかね。ただの無くしているだけではないんでしょうか」
「いいえそんなわけはないですわ。指輪は鍵付きの引き出しに入れて毎朝一目見てお出かけしますのよ?それに鍵は私がずっと肌身離さず…」
「ふむ。そうですか、ではしばらく調べがてらご厄介になることは出来ますかな?」
「ええ。いいですわ。何としてでも見つけてくださいまし。」
そうして僕と先生は泊まりがけでナクシモノを探すことになった。
Days 1
朝になり軽い朝食を頂きつつ僕らは話していた。
「誰かが盗んだのでしょうか」
まずは聞き込みからでしょう。先生はそう言った時大柄な男がおぉと声を出し目の前に立ち止まった。
「君が妻が頼んだ探偵かね?よろしく頼むよ」
「これはこれはご主人しばらくご厄介になります。いや、ここから家は遠いものでしてね。」
この方はこの屋敷の主人、ドミニク=べリルだ。大胆な経済作戦と豪胆な性格から海外の商談相手からはMr.Don(首相的な意味)と呼ばれているらしい。
そんな彼も今回の件にはたいへん困っているようだ。
「指輪が無くなったきり彼女はすっかり不機嫌でわたしにまであたる始末だ。素早い解決を頼むよ。」
「ウィ なるべく早く解決させて頂きましょう。」
そういうとご主人はハハと笑った。
「ああそうだ。ときにご主人、貴方は消えた指輪についてどう思われますか?」
「あぁ、どうせ彼女がなくしたのだろう。早く見つけてやってくれ」
「えぇ。必ず」
そういうと彼はスっと自室の方へ歩いていった。
その歩く速さはまるで向こうに何かを隠しているようだった。
「あれが世にも名高きドミニク=ベリルですか」
「えぇ、私も始めてお会いしましたが…思ったより冷たい人間のようですね。人に嫌われそうなほどに」
「だがことこの事件において彼は潔白なようだ。ものを盗むほどムッシュの目はマダムに向いてはいない」
「えぇ。奥様の指輪のことは私一切存じあげませんわ。相談なんかも受けておりません」
私達はこの屋敷の使用人のクラリスに話を聞いていた。
「では一切関与していないと…こういっては失礼ですが、もしやたいそう嫌われてますね?」
彼女はええ。とキッパリ言い張った。
「犯人が貴方であれば動機十分事件ともおさらばなのですがね」
「し、失礼な!」
冗談です。と笑うヨアンをよそ目に使用人は帰って行った。
「先生。嫌われますよ、ほんと」
最後に私達はこの家の最後の住人である一人息子に話を聞きに来ていた。
「ママの指輪なんて俺は知らないぜ」
「まだなんの説明もしておりませんが?」
「それ以外にこの家に調べに来ることある?パパが不倫でもしてるのかい?」
「ハハハハハ!それは是非とも調査したいところです!ですが今回は指輪の件でしてね。」
「やっぱりね。誰が怪しいと思ってるんだい?俺かい?メイドかい?そういや最近は父の友人がよく来るね。そいつかもしれない」
この屋敷の一人息子であるグレンは大笑いしてそう言った。余程機嫌がいいのであろうか。食べていた菓子をこちらへも寄こしてきた。
「あぁいえお気遣いなく。それと貴方は犯人の目安がついていますね?」
「Respuesta correcta!!僕は犯人の目星がついている。よくわかったね?」
グレンは相変わらず楽しそうだった。まるで探偵映画を見ているかのような楽しみ方だった。
グレンのもとを後にした我々は貸し与えて頂いた客間に居た。
「さて。僕は指輪の犯人は薄々わかってしまったがどうだろうか。」
「もうわかってしまったのですか!?」
僕は驚いた。
ついでについ教えてください!なんて言ってしまった
「まだ確証を得てはいない。まだ語るべきではないよ助手。ホームズを知っているかね?探偵は確証を得てすべてわかってからでなければ語ってはいけないのだよ」
「あぁ、すみません…有名な方なんでしょうか。あまり多くの探偵を知らぬもので」
「ふふ…ホームズが世に知れたのは小説だよワトスンくん。」
正直言ってワトスンとは誰かわからなかったがこれ以上恥ずかしい思いもしたくなかったので私は黙り込むことにした。
2日目
「やぁこんにちは。貴方が風の噂で聞いた探偵さんかい?友人宅が世話になってるね。私はトリスタン。君も僕の持ってきた東洋のお菓子を食べるかい?とても珍しいが東洋と言うだけで食べたがる人は少なくてね。"モナカ"と言ったかな。中に小豆をすり潰したものがあるらしい」
と、トリスタンはスラスラと喋り出した。随分おしゃべりな人なのだろうか。
「あぁ前に食べたことがありますね。中にあるものはアンと言うらしいですよ。それより…」
その時ヨアンの声を遮るように轟いたのは天を衝くような金切り声だった。
「あなた!あなた!!!」
「奥様どうにかなされました…!あぁ…なんてことだ実に不幸だ。無くし物の調査に来たら殺人現場に会うなんて」
そこには胸から血を流す屋敷の主人ドミニク氏がいた。部屋の温度と似つかわしくなく体は既に冷たく死後数時間が経っていた。
「この屋敷の人を全員ホールに集めてください!今すぐに!」
その後全員はホールに呼び出されるのであった。
皆がみな絶望のような顔をしていた。
仕方もない。この主人はなかなかに信頼されていたようだった。
「と、父さんが?ドッキリではなく…?」
もう20も超えていよう息子のグレンはそれきり一言も発さなくなってしまった。
「奥様。私がついております。どうか気をもってください。」
「あぁもう私は死ぬのよ…生きる意味なんてないわ…」
使用人のメイドは奥様を慰め、奥様は夫の死に絶望を抱いていた。
「恨まれる動悸があったにせよ、なかったにせよ。我々は犯人を捜さねばならない。」
一人一人に話を聞くことになった我々は奥様をあとにまわし友人であるトリスタンから話を聞くことにした。
「私はきっと指輪の件と同一犯ではないかと睨んでいますがどうでしょう探偵さん。」
「さぁどうでしょうな。同一犯であれば殺人の犯人を炙れば全てわかるでしょうが。
主人は死体の状況から昨晩遅くに殺されたのであろうと推測しますが、あなたは昨晩何をされていましたか?」
「あぁ、僕は遅くまで彼と飲んでいて妻からまだかと電話がこの家にかかってきたもんで帰らせてもらったよ。確か11:00ぐらいかな?」
ヨアンは成程とだけ言うとその部屋をあとにした。
「僕は指輪との関連性はないと思う。これは同一犯じゃない」
息子のグレンは虚ろながらそう言った。
「…大変お心苦しいのですが、昨晩は何を。」
「あっと…たしかご飯を食べたあとはずっとこの部屋で本を読み耽っていたよ。友達に借りた本を明日までに返さなきゃ行けなかったんだが…これは返せそうにない」
「そうですか…」
「ああそうだ探偵さん父さんは持ってなかった」
次に私達は奥様とメイドのところへ向かった。
「奥様…どうかお気を確かに」
「無理よそんなの…」
2人は未だ事件を飲み込めてはいなかった。
「申し訳ありません。大変失礼ですが昨晩は御二方何をされていましたか」
「わたくしを疑うというのですか!!私のあの人への愛は真実です!!」
「奥様…!…私は今朝のお食事の準備をしてから眠らせていただきました。もっともみなさん食べる気分ではないそうですが」
「すみませんありがとうございます。」
「怪しいのはどなたとお考えですかサー ヨアン」
「今回の事件を整理しよう。彼はあまり奥様に愛を抱かない夫であった。そして奥様や息子。友人は尊敬をしているようだったこと。それとあのメイドは奥様に特別な愛を抱いている。これは私の勘だ。それと息子の言う通り今回の事件は同一犯ではない。それと部屋は当時暑かった。」
「と、このくらいだろう。」
それからヨアンはフッと笑った。
「犯人は誰だと思うかね。僕のワトスンくん」
「J'ai atteint la vérité」
犯人はTwitterDM Ouka_0_1
若しくは数日後に出す活動報告にて