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身代わり息女は錬金術師  作者: 彩子
3/3

003

 お嬢様から引き離された私は旦那様に手を掴まれ、引っ張られるように廊下を進む。


「あの、旦那様。どこに向かわれるのですか?」

「執務室だ。余人に聞かせる事など出来ない話なのでな」


 どうやらかなり重要な上に急ぎの話のようだ。

 旦那様は笑顔のままだが、張り付けたように不自然な笑みだ。加えて纏う空気が物理的にもピリピリしているのは、旦那様の感情に魔力が無意識に喚起され、雷の魔法として漏れ出ているからだろう。魔力が高い人の強い感情は魔法を喚びやすい。

 旦那様がこうまでなるような何を私はしたんだろうか。

 捕まれた手の痛みに顔をしかめ、歩幅が違いすぎて引っ張られる速度に付いていけず途中何度か転びかけつつも、どうにか執務室前までたどり着いた。


「ああ、戻られましたか」


 執務室の前で使用人達に指示を飛ばしていたお父様が私たちに気づいてこちらを向く。


「お嬢様のドレスはいかがでしたか?」

「うむ、見事な出来であった。お前の娘の腕は確かだな」


 言いながらお父様は旦那様の為に執務室の扉を開いた。


「ありがとうございます。さあ、もうすぐ諸卿達がいらっしゃる時間ですので、急いで最後の打ち合わせ・・・・・を」

「分かっている。要点を絞って手早く終わらせる・・・・・・・・ぞ」


 旦那様が私を半ば放り込むようにして部屋の中へと押し込み、自身も入ってくると、お父様も続いて部屋に入り、内側からガチャリとドアの鍵を掛けた。


「――『風の壁よ、音を遮れ』」


 防音魔法と共に、部屋の内側がお父様の魔力で出来た膜に覆われた気配を感じる。

 さすがは祖父仕込みと言いたくなる緻密な魔力構成だ。余程の大声を出しても外には聞こえないだろう。

 扉の鍵と魔法の完成を確認したお父様から視線で促され、私はいつの間にか執務机の横に立っていた旦那様へと向き直った。


「さて――こうして詰問される心当たりは?」

「ちょっと思いつきません」


 きっぱりと返した私の返事に大人二人が揃ってため息を吐く。そのまま旦那様が無言で机上に置かれていた小さな箱を掴んで持ってきた。手のひらに乗るサイズのそれはこの島の名産品の一つとして知られる、綺麗な彫刻に螺鈿が嵌め込まれた蓋つき小箱だ。それをパカリと開き、中身を私に見せる。

 中敷きの天鵞絨の真ん中でキラリと光を弾くのは、真珠をあしらった金のラペルブローチだった。

 小振りながらも金の花弁が真珠を縁取るように囲むデザインにも既視感があるが、花の中心にある微妙に歪んだ形の真珠にはハッキリ見覚えがある。

 貝殻細工師に対価として譲った真珠だ。


「これはお前が細工師に譲ったもので間違いないな?」

「はい。旦那様がお買いになられたのですね」


 交易で寄ったどこかの商人あたりが買うかと思っていたが、それなりに資産家であり島で唯一の継承貴族であるモンテ家の当主である旦那様が購入する可能性も高かったので、旦那様がそれを持っている事に不思議はない。

 ブローチのデザインが私の注文のそれに似せてあるのは、きっと細工師から私の注文に関して聞いたからだろう。個人情報保護法? コンプライアンス? 何それこの世界にあるの?


「珍しい真珠だからな。お前がフロリアナにブローチを贈った事を教えられ、似たデザインでブローチを作ったので私も付けてはどうかと勧められた」

「親子でお揃いはお嬢様も喜ばれるでしょうね。……あ! もしかして奥様の分もご用意したいという事ですか? 御屋敷の生け簀に場所を借りて育ててるものですから必要なら探しますけれど、アワビの身をどう処理するか……あっ、今日のパーティに使って戴いても良いですか?」

「…………まさかまだあるのか。というか、生け簀というのはまさか数年前から世話をしているアレか」

「はい。まだまだ育ててる途中ですから、出来はイマイチなのが大半だったんですけどね。一つくらいならそれなりのが見つかるかもしれません」


 アワビには成長が早いものが時々あるようで、三つの真珠もそういった大きい貝から採れたものだった。なので大きい貝を探せば真珠扱い出来るものがあと一つくらいは見つかる可能性が高い。ついでに成長が遅めの貝はどれも真珠の形成がイマイチだったので、エサを集める手間を減らす為にも沢山の胃袋がやってくるこの機会に選別して片付けて貰おう。

 そんなことを考えながら旦那様を見ると、何故か大きなため息を吐かれた。横目に見えるお父様も無言で額を押さえている。頭痛でもしたのだろうか。


「……リア」


 お父様の方に気を取られている間に、旦那様に距離を詰められていた。

 ニコリと笑った旦那様が、私の両頬に手を添え――指に力を入れる。


「この真珠は真珠としての品質は低いが、ハリオテスから作り出したというのが事実ならとんでもない価値がある。

 ――史実において鮑からこれほど美しい形の真珠が採れた記録は、偉大なるグリエルモの錬金術による一粒しかないと知っているか……?」

「し、しりみゃひぇんでひたしりませんでした……!」


 笑顔で怒る旦那様から両頬をむにょーんと引っ張るように抓り上げられながら、私は半泣きでそう答えた。

 グリエルモという名を持つ者はそれなりに居るが、『偉大なる』などという尊称を付けて呼ぶ人物となるとただ一人。初代国王に与えられたというグリの木の苗を作り出した植物の品種改良の研究者にして、この地方における緑の革命の旗手。――かつて存在したアールヴの錬金術師の事を指す。

 その歴史上の人物の事は私とて知っていた。

 だが、なんだってそんな大物の名前が分野違いの筈の海産物関係で出てくるのか。


「……グリエルモは晩年、真珠をよく作る貝を生み出す研究を行っていたのだ。しかし、研究の途中で貝の形状から鮑で作るのは非効率だと判断し、研究対象を二枚貝に絞った」


 真珠は成分によっては魔法の触媒になるというのは前述の通りだし、普通にお金にもなる。なので人族との交易に使えるだろうと量産の為に品種改良の研究をしていたらしい。

 研究は未完成で終わっているが、彼が作った真珠自体は歪なものも合わせればそれなりにあるそうだ。しかし、早々に改良候補から除外した為に彼がアワビから作った真珠は殆ど無く、美しい円を描く形状となると一つしかないという。


「かつてグリエルモが適さないと判断した種類の貝で、錬金術を使わずに、美しい形状の真珠を複数作るなんていう芸当をしでかした上、よりにもよって判明したのが今日とはやってくれる……!」

「……?」


 ギリギリと歯を食いしばり、呻くような声で詰られる。

 何か、余程まずい理由があるらしいが、私にはさっぱり分からない。


「細工師から今日パーティまでにと急ぎの面会を希望されたから所用のついでなら店に寄れると返して、行ってみたら出されたのがコレだ。低品質でも真珠として扱えるレベルだからな、親が騎士であるとはいえただの乳姉妹でしかない子供が娘にこんなシロモノを贈っては実の父親も下手なモノを贈れんだろうから事前に打ち合わせをした方が良いと、私のメンツを気にして連絡をくれたんだ」


 旦那様の説明に、内緒だって言ったのにあの細工師ゲロりやがったな、と一瞬怒りが湧く。が、よく思い出してみれば口止めの約束はお嬢様の誕生日までだったからギリギリ約束は守っていた。

 私との約束と旦那様の面子を天秤に掛けて両方守ってくれようとした結果だろうと考えると責める事は出来ない。むしろ貴族のメンツを潰しかねないのに子供相手の約束をしっかり守ってくれたのだから義理堅いくらいだろう。

 というか、今思い返せばレースのドレスが旦那様との合作扱いにされたのも恐らく貴族のメンツが理由だろう。ドレスの出来が良かった場合、晴れの日に着るドレスに関わったのが七歳の子供だけというのも、家が用意した晴れのドレスより乳姉妹が贈った普段着の方が豪奢であるのも問題だから、あらかじめそうする事で面倒が起こる事を避けたのだ。

 その時に察すれば良かったのに思い至らなかった私がアホだった。


「お前の事だからフロリアナの為に作ってくれたのだろう。そこは礼は言う。本来なら装飾品を贈るのにも親に事前連絡など要らん。

 ――しかし! 

 常識から逸脱する行為をする場合は事前に話を通せと何度言ったら分かるんだ! 七歳児が真珠を貝から育てて自分の子供に贈ってくるなどどこの親が考える!? ええ!!? 変な知識は持ってるクセに常識は知らんのか!!!?」

ふみみゃひぇんすみません---!」


 痛い痛いあんまり強く引っ張らないでっていうか見てないで助けてお父様! 自業自得だって目で見ないで!

 「レースの時は成長したなと喜んだのに!」とちょっと涙目で嘆く旦那様に、今回はマジでヤバいらしいと勘づく。

 おかしい。

 いつもの旦那様なら私が何かやっても、どんなに怒っててもここまで表情に出さない。さっきのお嬢様の前でのようにポーカーフェイスを作る筈だ。何でこんなに焦っているんだろうか。



「……ぷっ、はっはっは!」



 唐突に聞き覚えの無い笑い声が部屋に響き、それに旦那様がビクリと反応する。

 一瞬にして真っ青になった旦那様に、今日の旦那様の様子がおかしい原因はこれではないかと察した私は、私と旦那様とお父様の三人しかいない筈の部屋に響いた声の出所を視線で探した。

 すると、一か所不思議な場所を見つけた。ソファとテーブルの置かれた一角――応接スペースの周辺の空気がわずかに揺らいでいるのだ。

 部屋の一角を区切るように広がった揺らぎの波紋。見えない壁がそこにある。

 直後、ひとしきり笑い終わったらしい声が止むと同時にぱちんと風船が弾けるような音がして、その見えない壁が割れた。


(水の壁……)


 揺らいでいると思ったのは薄く広がった水で出来た壁だったのだ。

 壁が割れ、弾けてただの水に戻った数々の水滴はしかし重力に従って落ちる事なく、空中を流れるような動きでテーブルの上の花瓶に入っていき、ちゃぷんと音を立てたのを最後に何事も無かったかのように姿を消した。魔法だ。

 後に残ったのは、無人に見せかける幻影を映していた水壁を消した事で姿を現した美丈夫が一人。


「そのくらいにしてやるがよいライモンド。まだ子供であるのだから常識などこれから学べばよいのだし、竜の子カーバンクルは大事に扱った方がよい」


 ソファにゆったりと座ったままこちらを眺めそう言って笑う男を見て、私は固まった。

 見たことのない男だが、項のあたりで一つ結びにされた長い――南の海を思わせるセルリアンブルーの髪を見れば誰であるかは分かる。この国でこのくらいの年齢の青い髪の男となると一人しかいない。

 ――ヴォルティコ・ディ・ジョルジア。モンテ島を含めたジョルジア諸島を統べる辺境伯家当主にして、旦那様の上司であるその人だ。


「申し訳ございません、見苦しい所をお見せしました……」

「よいよい、いつも落ち着いている其方が俺が居る事も忘れてそのような醜態を見せるなど、余程動転したのだろう。内輪の席ゆえ咎めるものでもない。気にするな」


 名を呼ばれた旦那様は慌てて私の頬から手を放して居住まいを正し、辺境伯に頭を下げた。それを辺境伯はひらひらと手を振って遮る。

 旦那様から解放された事で硬直が解けた私は痛む頬を擦りながら辺境伯をそっと伺い見た。

 年齢は旦那様やお父様と同年代、三十歳手前といったところか。

 健康的に焼けた肌、一見細身に見えるが必要な筋肉はしっかりついている引き締まった長身の体躯、胸元まである青髪は手入れが行き届いているらしく一つに纏められていてもなお艶々と室内灯の光を弾いているし、楽し気に眇められた青灰色の目はその色に反して暖かみのある光を湛えている。

 恐らくアールヴの血が相当濃いのだろう。旦那様や父も結構イケメンの類だと思っていたが、この男はド級だ。祖父が百歳くらい若返ったらワンチャン対抗できるかどうかといったところか。いや、男性的な南国の美形と中性的な色白の美形では系統が違いすぎて比べられないが。

 そんな事を考えながら辺境伯を見上げていると、本人とバチリと目が合った。

 再び硬直した私に辺境伯はフッと笑みを見せ、ソファから立ち上がって私の目の前まで来ると、私の頭にポンと手を置いた。


「隠れていて悪かったな、少し様子を見たかったのだ。改めて、はじめましてお嬢ちゃん、俺はヴォルという。お嬢ちゃんのお父上やライモンドとは腐れ縁だ」

「はじめまして辺境伯様、私はアメーリア・シルヴェストリと申します。いつも父と旦那様がお世話になっております」

「おお、俺が誰か分かるか。うんうん、勉強熱心で頭のいい子は好きだぞ」


 頭に置かれた手でそのままぐりぐりぐしぐしと頭を撫でられる。

 揺れる視界に軽く目が回った。


「しかしお嬢ちゃん、そなたは真珠の件やさっきのライモンドとのやりとりからして、どうも『頭のいい馬鹿』という類のようだ」


 はっはっは、と笑いながら直球に失礼な事を言ってくる。


「あまり時間もないことだし、とりあえずライモンドが何故こんなに焦っているのか、説明してやろうな。

 ――娘がめでたく童子節を迎え、十年ぶりに俺を家に呼べると張り切っていたのに、家に連れて来る途中にちょっと寄り道したら世界中に影響を与えかねない厄介事が降って沸いたのだから、それは動揺もしようというものだ。錬金術すら使わず真珠を量産できる可能性など、放っておくわけにもいかん上に、辺境の子爵に処理できる問題でもない」


 この国では結婚した貴族は婚姻を交わしてから十年が経つか、最初の子供が七歳を迎えるまで自分より高位の魔法使いを家に招けない。

 結界魔法の安定がどうたらとか学んだ記憶がかろうじてあるが、授業を受けたのがお嬢様の事を考えていた時だったのか、正直よく覚えていなかった。


「……他の貝や他の場所でも出来るかは分かりませんし、こっそりお嬢様の為に使って終わりではダメなのですか?」


 正直、大ごとにされるとか面倒くさい。

 そもそも真珠は希少品で、それが素人の子供の手で幾つも作れた事が奇跡に近い。しかし奇跡なら起こるきっかけがある筈だし、奇跡でないならば何らかの条件が満たされた結果である筈だ。

 私はこれを運という要素を除いては奇跡でないと思っているし、その条件に貝の品種と海域が大きく関わっていると考えている。

 ジョルジア諸島のある周辺の海域は基本的に潮の流れが複雑かつ速い。その昔海賊の根城として使われていたのも、魔物すらろくに近づかない程に潮流が読み辛い、攻め難く守り易い場所であったからだ。

 そんな場所で生きる為に、この海域のアワビは比較的自己治癒力とかが高い品種として進化したのだと思う。

 魔物が徘徊する上に潮の流れが速いこの海域に生息する貝だからこその、私の適当な扱いでも死なないものが出るほど強い生命力を持つ品種。だから私が捕まえてご飯を安定供給した事がそのまま成長に繋がり、上手い事真珠も作ってくれたのだと私は考えている。

 多分地球の貝で同じ事をやったら百パーセント失敗していただろう。


「こっそり終わらせたかったのなら細工師に渡すべきでは無かったと思うぞ。それで駄目になったようなものだ。口止めはしたが、どこから情報が洩れるか分からん以上、捨て置いては他の誰かに利用されるかもしれんし、下手に伏せると利権や情報を得る為にと身内が拐かされる可能性もある。それを考えれば、俺に泣きついて一口噛ませつつ利権を確保して、それを周知させるのが手っ取り早い」

「それは確かにダメですね。しっかり権利を確保した上で技術として確立する研究をしましょう」


 お嬢様に危険が舞い込む危険性があるとなれば話は別だ。そんな可能性に思い至ってなかった自分に頭の中で「この頭の悪いただのバカめ!」とハリセンを叩き込みながら、方針を変更して同意した。

 よくよく考えれば真珠の養殖が商業として成功すれば大儲けだ。お嬢様に今以上に贅沢な暮らしをさせてあげられると考えれば悪くないかもしれない。

 生け簀を置いてあるのは子爵家の港の端だから研究の為にそのまま規模を拡大するわけにはいかないし、モンテ島には他に使えるような余裕のある場所はないが、海域内なら似たような条件の場所があるだろうし、無ければ最悪工事や魔法で地形を弄ればいい。辺境伯も乗り気のようだしそのくらいの協力は取り付けられるだろう。

 お父様が部屋に防音魔法を掛けた時に部屋を軽く探査したのに存在を感知できなかった事から考えて、辺境伯の魔力は私より相当高い。加えてその『血筋』からすると自分では試せないからと諦めていた他の貝での真珠養殖が可能になるかもしれない魔法を使えるかもしれないし、それが成功すれば辺境伯の功績にもなるから利権絡みでの身の危険も分散される。

 真珠の量産へと思考を切り替えた私を見て、辺境伯が笑みを浮かべた。


「うむうむ。だがお嬢ちゃん、暫定ながらも真珠の人口生産の第一人者はそなただが、いかんせんそなたはまだ子供な上に、身分上は平民だ。投資をする相手としては少々どころでなく不安のある存在だと思わんか?」


 その言葉にコクリと頷く。

 確かに私の肉体年齢はまごうことなく子供だし、私自身は貴族ではない。祖父と父は騎士爵を持った貴族だが、それぞれが時の国王陛下や旦那様から個人に贈られたものだ。騎士爵の大半と男爵以上のごく一部の貴族のみに適用されるこの身分は「終身貴族位」というもので、モンテ家やジョルジア家の「継承貴族位」と違って子供に相続させる事は出来ない。

 だから私がお嬢様の侍女になるのだって、本来なら少し難しい事だったのだ。百年ほど前の諸島統一時に活躍した騎士の家系とはいえ、祖父が晩婚だったのもあってまだ二代しか続いていない上に、財産もたいして無い。裕福な商人の娘とかの方が、身分としては私より上位になるくらいの立ち位置、と言えば多少は説明になるだろうか。

 モンテ子爵家の他に継承貴族が居ない小さな島という環境と、乳姉妹というお嬢様との関係、ある程度上級の教育を受けられる親の身分、という三拍子が揃った事で許されたようなもので、首都住まいの見知らぬ子爵位の貴族相手ならば針子の一人に収まるのがせいぜいだっただろう。


「俺はお嬢ちゃんの事はライモンドから娘の事と共によく聞いているし、自分で言うのもなんだが心の広い男だ。だから、お嬢ちゃんをそこらの子供と同じだととは思わん。が、これから真珠を作っていくとなると、人手はどうしても必要だし、増やす事になるだろう。しかし雇う人間全員が平民の子供のいう事をちゃんと聞いてくれるような頭の柔らかい奴とは限らぬのは分かるな?」

「はい」

「うむ。だから手っ取り早く身分だけでも取り繕う為に――そなた、俺の養女にならんか?」

「えっ、お断りします」


 辺境伯の提案に、私は即答した。


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