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調査後のミーティングは例によって僕の家の僕の部屋で行われることになった。
まだ残暑が厳しいということもあって、僕の勉強机を勝手に占領しているミナミを僕はうちわで扇いでいる。
ああ、下僕の悲しさよ。
それはまあそれとして、今回の事件について、僕はいろいろ疑問を感じていた。
特に疑問だったのは、なぜミナミがユウコという女性のことを知っていたのかということだ。
「ああ、それはあのトンネルでそんな事故があったことはすでに調査済みだったからよ」
「え、そうだったんですか?」
「当たり前でしょ。調査対象を調べてから行くのは基本中の基本。それを踏まえたうえで、本当にその幽霊がそこに棲みついているのかを調べようとあのトンネルを訪れたのよ」
それならそうと、僕に教えてくれてもよかったじゃないかと文句を言おうとすると、ミナミはその台詞を封じるように言葉を重ねた。
「あの幽霊、変なところで男のえり好みをするという噂があって、若い男でないと興味を持たないらしくてね。そういうときでないと現れないって話だったの。若い男女連れで行くと霊が現れて悪さをするって噂もあってね。それで今回誠二くんと私で調査に行くことにしたの。でも、本当のことを言うと、誠二くんのことだから嫌だとかなんとかぐだぐだ言うでしょ。いちいちそんなのを連れていくの面倒じゃない。だから黙ってたの」
凶悪な微笑みをこちらに向ける女王様。トンネル内で、僕のことを心配してくれて優しいところもあるじゃないかと思っていたのは、どうやら完全なる間違いだったらしい。
「結果的に誠二くんのお陰で幽霊にも遭遇できたし、除霊まで出来たんだから、今回の成果としてはほぼ大満足ね。幽霊トンネルの謎も解明できたし」
僕はミナミの台詞を聞きながら、沸々と込み上げてくるものを感じていた。
「うふふふふ。これだからオカ研の活動はやめられないのよねー。スリル満点でここでしか味わえない醍醐味があるわ。今度は他の部員も呼んで、またこういう調査に行きたいところね」
「ミナミさん」
「え? なに? 誠二くん」
さすがの僕も今回の苦労を思い出し、おしおき覚悟で女王様に進言、いや、箴言を言わずにはおれなかった。
「僕たちがもしあのトンネルから出られなかったら、今ごろどうなってたかわかりませんよね」
「そうね」
「しかも僕はあの幽霊に取り憑かれて、下手するとあの世に連れて行かれるところでした」
「そうだったわね」
淡々と僕の言葉に応じるミナミ。
わかっている。どうせなにを言ったって無駄だってことは。
だけどそれでも、今回ばかりは言わせて欲しい。
「だからもう」
少しは届いてくれ。僕の切実な心の叫びよ。
「本当にお願いですから」
きっと神様は許してくださるだろう。
僕のこのささやかな反逆を。
「こんな怖い綱渡りはどうか勘弁してください!」
夏の終わりを告げるひぐらしの鳴き声が、窓の外から聞こえてきていた。
〈終わり〉