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ミナミは、僕が気を失ったときに電灯が瞬いて一瞬消えたことに注目していた。
「トンネル内に、その場所は必ずあるはずよ。きっとそこにその女はいる」
「つまり電灯が切れそうになっているところを探せばいいんですね」
「そういうこと」
しばらく僕たちは電灯に注目しながらトンネル内を歩き続けた。そして、前方のほうでそれらしき瞬きを僕は確認した。
「あっ、あれ!」
僕が声を発したそのときだった。
突然周囲が真っ暗闇に包まれた。
「え……っ!?」
なにが起きたのかわからず、僕は目を瞬く。しかし、目を閉じても開いても、そこにあるのは黒い闇。薄暗くはあったが、先程まではあった電灯の光が、今はとてつもなく尊いものに思えた。
「ミ、ミナミさん! どこですか!?」
僕は叫び、周囲を手探りで探してみる。
「ミナミさん!」
しかし、どうしてだか先程まで近くにいたはずのミナミからの返事がない。
「なんで!? どうして答えてくれないんですか!?」
暗闇の中、僕は必死に呼びかける。
「ミナミさん!!」
どうして。
さっきまで、すぐそこにいたのに。
僕はなにかに急き立てられるように、暗闇の中を走り出した。
「ミナミさん! どこですか!? 返事をしてください!!」
進んでいるのか、どこに向かっているのかもわからない、噎せかえるような濃密な闇の世界。
不気味で禍々しい暗黒の滑りが、己の目や鼻や口、全身の毛穴から侵入してくるようなおぞましさを感じ、両手で体中を撫でさすって堪える。
頼む。
お願いだ。
来ないでくれ。
自分がなにに対し願っているのかもわからないまま、願い続ける。
嫌なんだ。
僕はきみに会いたくない。
だからどうか。
ドンッ、と僕はなにかにぶつかった。
反動でふらつき、数歩後ずさる。
突然のことにすぐに頭は働かなかったが、しばらくして、自分がぶつかったのは、壁ではないなにかだったと感じた。そしておそらくそれは、人の形をしていた。
「ミナミ……さん?」
僕は安堵して、先程ぶつかった人物に手を伸ばした。そして、確かにそこに人の腕らしきものがあるのがわかった。
「よかった。こんなところにいたんですね」
そう口にしつつ、触った腕がとても冷たいことに気がついた。
「あれ、ミナミさん。随分体が冷えてますね」
そう。その腕はとても冷たかった。先程ミナミが僕の背に触れた温かな手と同じ人物の腕とはとても思えないほどに……。
そう考えてようやく、僕は自分がとんでもない間違いを犯してしまっていることに気がついた。
「あ……」
ぞろりと、暗闇が動いた。
『ウフフ』
バチバチとなにかの音が聞こえる。
見てはいけない。
反応してはいけない。
『カワイイヒト』
なにかが弾けるような音が激しさを増す。
『ネエ』
聞いてはいけない。
心を掴まれてはいけない。
ハヤク。
『ワタシトイッショニ』
ココカラニゲナクテハ。
『キテ』
がしりと、僕の腕を冷たいなにかが掴む。
バチン!
一瞬灯った電灯の中で。
この世のものならざる女の姿が見えた。