金なる明星より降りし者弐01
「準備があるらしい」
イズミは、そう云った。
一種のプラチナカードだ。
ギルマスを圧倒したクロウ。
Sランクのイズミ。
既に噂は流れているが、
「どちらが強いのか?」
その決着が見られるのなら、確かに惹き付ける物もあるだろう。
噂はセントラルだけではなく、神王皇帝四ヶ国に轟いた。
ギルマスとの時もそうだった。
で、あれば、イズミともとなると、注目度も上げ上げだろう。
「疲れる」
名誉を欲する気のないクロウにしてみれば、無駄どころか……収支でマイナスだ。
端に、無駄で済むなら、まだ良い方である。
「とはいえ業の深いこと」
苦笑。
「イズミと真っ向から戦う」
そこに、少しだけ楽しみにしている自分も、見出す。
自身が自刃した後の、剣の進歩。
その凝縮がイズミだ。
剣を交えたことは一度や二度では無いが、そこでも驚かされることは多々あった。
であれば実戦なら更に、であろう。
そんなわけでクロウは、決闘前に、イズミとデートをしていた。
アイナは書類と格闘。
ローズは単位取得に忙しい。
必然、暇しているイズミが、懐いてきた形だ。
「ふ」
「ほ」
二人揃って、喫茶店で、茶をしばいていた。
当然目立つ。
尊崇。
畏敬。
そして恐怖。
どちらをもして、意味不明の存在だ。
人が忌避するのもしょうがない。
希に突っかかってくる人間もいるが、イズミが返り討ちにしていた。
クロウの方は、挑んだだけで、首が胴から離れる。
彼の手腕では、ないにしても。
「クロウに挑むにはギルマスから白星をあげること」
そう法度が出ているのだ。
結果、処理はイズミの範囲だが、
「つまらん」
と彼女は切って捨てていた。
あくまで言葉で。
決闘としては、叩きのめして終わりだ。
「殺さないんですね」
茶を飲みながらクロウが言う。
「別に殺してもいいが立場を分からせるだけで十分だろ」
ガタッ、と、乱暴に椅子に座って、茶を飲み出す。
「人が良いのか悪いのか」
少し首を傾げてしまう。
「結局御前試合でしょうか?」
「さいだな」
「あまり褒められたことでもないのですけど」
「むぅ」
半眼で睨まれる。
「手は抜きませんが、本当のところを言えば、地位や名誉は嫌いなんですよ」
「頼朝のせいか?」
「ええ」
茶を飲む。
「嫉妬した頼朝が悪いって風潮だぞ?」
「いえいえ」
そこは譲れない。
「小生が逸っただけですから」
「自責の念もそこまでいけば歴史級だな」
実際にその通りなのだが。
「それより本当に無刀で挑むつもりか?」
「アンチマジック相手に、魔術で造った薄緑は、効果的では無いでしょう?」
「使わなければいい」
「そちらが渾身で行かれるなら、こちらも渾身で行きますよ。禍根の残る勝負も、嫌でしょうし……」
「律儀だな」
「苦労人です」
「そういうところは好ましいが」
「恐縮ですね」
「オリジンねぇ」
「先生がどうかしましたか?」
「いや、初めては俺が貰い受けたいところだ」
「操を誓っていますので」
「俺がオリジンを討てば?」
「地平の彼方まで追いかけて殺します」
「それはそれで面白そうだな」
くっくとイズミは笑った。
「冗談ごとでは無いのですけど……」
「だからかね」
「?」
「あの伝説と戦えるんだから」
「剣聖が言いますか?」
「然りだな」
揃って茶を飲む幼年二人。




