チートなサムライ二人目18
さっくりさくさく。
クッキーのキャッチコピーの様だが、ダンジョンの攻略についてだ。
とにかくアイナとローズは必要ではなかった。
クロウとイズミが常識から遊離している。
「スイッチ」
「アイサー」
前衛を交代する。
下がるクロウと交差する様に飛び出したのはイズミ。
流麗にして凪の如し。
まったく起こりが読めない剣。
陰。
そうも言える。
クロウなみの変幻自在の剣に、静けさが存在する。
「たしか愛洲陰流とか言いましたっけ?」
イズミの剣の流派だ。
正確には前世……上泉信綱の。
ロックゴーレムの石の呼吸を読んでスラリと剣を振るう。
まるで抵抗なく切り裂いて無力化せしめる。
「凄まじいですね」
クロウとて武士で剣士だ。
イズミの剣の練られ方は見るだけで分かる。
イメージで幾度も戦った仲だが、それにしてもと言ったところ。
「しかもこれで和刀ではないというのが……」
苦笑を誘う。
片手剣とは言え両刃のそれだ。
和刀より使い勝手は悪いだろう。
それでこの実力なのだから、
「何をかいわんや」
である。
「スイッチ」
「アイサー」
今度はクロウが前に出る。
手にするは薄緑。
流派は京八流。
天狗の剣にして鬼の剣。
自在闊達な剣。
変幻でありながらイズミの静の剣に対して、クロウの剣は動に当たる。
軽やかかつ滑らか。
スルリとトロールを斬り滅ぼす。
「ほう」
イズミも思うところはあるらしい。
「あのう。後衛は?」
「邪魔だ」
事実だが、言葉を選ばないのはイズミらしい。
幼女なのに気風は一人前。
「前衛がそう言うのなら良いのですけど」
クロウにしろイズミにしろリンボの敵が敵足り得ない。
「本当に人間か?」
とはローズの思うところだが、そもそも此処に純正な人間は一人もいない。
ローズも含めて。
ボスフロア。
「シザーマン……」
鋏を持ったシリアルキラーが現われる。
「どっちが戦う?」
「イズミに任せます」
ヒョイと薄緑をイズミに投げ渡す。
「承った」
受け取ってシャランと刀を抜く。
「ん。良い感じだな」
久方ぶりの和刀なのだろう。
イメージでの斬り合いでは和刀だったが、現実で持てば感動も一入といったところ。
「では……参る」
「――――」
和刀と大鋏がぶつかり合う……ことなく斬り捨てられた。
魔金属の鋏が易々と刃を受け入れる。
スッと加速。
「疾い」
率直なクロウの感想。
斬撃から斬撃までの呼吸が短いのだ。
クロウと同等。
あるいはそれ以上。
ススッと筆で描く様に、剣を振るう。
無音の剣。
静の極致。
「水面の凪の静けさよ」
ポツリと呟いたイズミの通り。
静謐の中でシザーマンの首が胴から離れる。
チンと納刀。
クロウの薄緑を返す。
「お見事」
「畏れ入る」
ニカッと笑い合う二人だった。
「何か通じ合っていませんか?」
「だよ……ね……」
思念で会話する後衛二人だった。




