チートなサムライ二人目08
クロウとイズミの死合いは終わった。
元より『イメージ上での打ち合い』であったため、現実のクロウとイズミはテラス席に座ってのんびりモードだ。
二人揃って超常的な埒外の御業だが、どちらもプレッシャーは覚えず、冷や汗の一つもかかない。
手加減した。
あるいはされた。
どちらもが認識するところだ。
「身体能力そのものはオーガの血に依るところだろう」
剣聖イズミは淡々と言う。
それは己にも問いかける物だ。
デミオーガのクロウ。
ハーフオーガのイズミ。
どちらにせよ、年齢不相応の膂力の根源は其処に有る。
「が、剣に一定の理があった。この世界にはまだ無い技術だ」
「と言うことはイズミも……」
「ああ、転生者だ」
「武士なのですか」
「単なる浪人だ。弟子は少し持っていたがな」
「ははぁ」
チョコレートを飲む。
「此方の剣に付き合ってくれたのは久方ぶりだ。前世はさぞ名のある剣豪だったのだろう……」
「然程では」
「名を聞いても?」
「源義経」
転生者であることがバレてしまった以上、隠すこともない。
「判官九郎!?」
さすがに驚いたらしい。
というか事実イズミは驚いている。
「あ、知ってらっしゃるのですね」
クロウはホケッと納得した。
まぁその大立ち回りは派手で鮮烈だ。
後刻に名が残ってのもしょうがない。
「鬼一法眼から虎の巻を伝授されたという……」
「ですね」
鬼一法眼。
鞍馬天狗。
あるいは護法魔王尊とも。
日本に於ける仙人で、ついでに京八流の開祖にして究極。
クロウをして、
「届く気がしない」
と覚えさせる武の極み。
クロウが弁明するなら、
「ネガティブは覚えても諦める気は一切ない」
と言ったところだが。
普段は酒飲みのチャランポランだが、剣を握れば天下無双だ。
見上げて溜め息の一つも付く。
「源義経……なるほど京八流……」
イズミは考え込んでしまった。
日本の剣術の祖とも言われる流派だ。
弟子が各々に伝えて別の流派が生まれたとさえ言われている。
「そういうそちらは?」
「前世の名は上泉信綱という」
「上泉信綱……ですか」
コクリと首を傾げる。
クロウが知らなくて当然だ。
年代的にはクロウの方が古い。
イズミ。
上泉信綱。
陰流を完成させ、柳生新陰流やタイ捨流の祖となったサムライ。
剣聖と謳われた伝説の人物だ。
無論クロウの知ったこっちゃないが。
が、剣においては超の付く一流で、なお剣史を語れば避けて通れない名前でもある。
冴え渡る水面の如く。
そう評される剣は自由で自在。
クロウの剣も似たような性質を持つが、技量で言えば同格以上だ。
「実際大した物ですしね」
とクロウは持ち上げた。
イメージでの剣劇はたしかに互角だった。
アレがクロウの全力ではないが、イズミの全力でないことも理解している。
そもそもアレで全力ならSランクの冒険者には分類されない。
「まさか伝説の剣豪に褒められる日が来るとは」
イズミの方は感動しているらしい。
幼女の瞳の乙女チックな視線。
これが上泉信綱というのだから異世界は理不尽だ。
「伝説って……」
苦笑する。
クロウにしてみれば前世は業の顛末と相成るが、イズミは違うと語った。
曰く、
「兄、頼朝に裏切られた不運の武将」
かくして、
「判官贔屓」
の語源になった。
そう伝わっているらしい。
クロウにしてみれば自分のせいで兄も妻子も部下も不幸にしたとの認識だが、イズミにとってはむしろ頼朝の方に非があると伝わっているらしい。
「小生が愚かだっただけなんですけどねぇ」
あまり肯定されても心地よくないクロウ。
むしろ尊敬する兄を悪者呼ばわりされることが理不尽に思えた。
「クロウ」
「はいはい?」
チョコレートを飲む。
「死合おうぜ」
「面倒くさいです」
本心からの言葉だった。




