チートなサムライ二人目06
美少女。
茶店のテラス席でクロウとは少し離れた場所に立っている。
クロウと同じ黒髪に白い肌。
口元は不敵を謳っており、つり目は自負を映している。
幼いながらも尊貌は抜群。
「だいたい同年齢くらいか」
とはクロウの感想で、美少女ではあれど……どちらかと云えば美幼女に属する。
観察するにさほどの能力は感じられないが、発する武威と矛盾する。
「?」
首を傾げるクロウ。
「何者なるや?」
は自然な疑問だろう。
クロウに絡んできた男が狼狽する。
「剣聖……っ!」
剣聖。
男は幼女をそう呼んだ。
腰に差しているのは片手剣。
ゆったりした服を着ており、どこか浪人を思わせる。
が、ともあれ男のソレは聞き逃せない言葉だ。
「剣聖」
チョコレートを飲んでポツリ。
「Sランクと戦いたいんだろ? 俺が相手してやろうか?」
幼女は不敵に笑った。
発する武威も一段階上がる。
プレッシャーが強めの風のように叩きつけられる。
狼狽する男。
クロウは平然とした物だ。
剣聖が女。
どころか幼女。
それだけでも予想外だが、
「たしかな実力を持っている」
これが一番驚いた。
少なくともクロウや剣聖の年齢で辿り着け得る境地ではない。
クロウの場合は前世の業とオーガの血が折り重なった結果だ。
となれば、
「デミオーガ?」
クロウと同種の存在か?
それもまた真っ当な疑問。
「で、どうするんだ」
クロウの心中知らず、剣聖は男を挑発した。
黒い瞳は嘲るように笑っている。
細やかなプライドを刺激されたのだろう。
剣を構える男。
「伝説に終止符を打ってやる」
「よいよい。それでこそだ」
酔うように剣聖は笑った。
幼気な少女の笑みだが陰惨さが乗っている。
「よくもまぁ」
とはクロウの感想。
年齢不相応な現象がさっきから続いている。
「死ね!」
男が加速した。
中々のものだ。
「Bランク辺りかな?」
そんな暗算。
剣筋は練られていてお手本のようだ。
フェイントの一つも入れないのは、おそらく未熟のせいだろう。
型にはまる。
要するに文献通りの剣の使い方だ。
強みであると同時に弱みでもある。
対する幼女……剣聖はゆったりとしていた。
「ぶっ」
チョコレートを吹く。
無構え。
制圏を全域に投射する剣の奥義だ。
クロウも獲得している。
戦闘に於ける脱力の必要性は、この世界にはまだ有り得ない技術ではある。
「本当に何者だ?」
思うも無理なからぬ。
クロウが吹いたチョコレートを拭き物でさらっている間にゴタゴタは終わった。
剣を抜かない。
偏に身体能力だけで剣を躱し、男の首を掴む。
こうなるともう剣の間合いではない。
頸動脈の圧迫。
「――――」
声にならぬ声。
呻く男は白目を剥いて倒れ伏した。
決着だ。
「お見事」
クロウは拍手する。
「そういうお前がクロウか」
「知っておいでで?」
「俺とどっちが強いか……最近の噂はソレばっかりだからな」
うんざりらしい。
「相当強いですよね?」
クロウとしてもそこは見誤らない。
事実無構えの境地に立っている身だ。
クロウに言えたことじゃないが、
「幼女がその領域に至れるか?」
は真っ当な念じ方だ。




