チートなサムライ二人目05
ワンデイ。
クロウは一人、学院街に出ていた。
時刻は昼。
昼食をとってシェスタの時間。
茶葉をきらしたので補充に出掛けているところ。
鮮やかなロングヘアー。
精緻な造りの御尊顔。
膂力とは裏腹に均一の取れた体つき。
ついでにメイド服。
「おお」
「わお」
一種の名物になっていた。
元々ギルマス相手に圧倒した剣の使い手だ。
なおギルドから法度で保護して貰っているという特別な存在。
ギルドには所属していないが、
「Sランクの実力」
はマスターとの決闘を見た誰しもが共有する認識だった。
トゲを持つ美しさとして、
「薔薇の少年」
と呼ばれ、
「男でありながら男を魅了する」
と一部では囁かれている。
弁明をするなら、
「小生にその気は無いんですけどねぇ」
と相成る。
衆人環視の視線を集めながら、街道を通って市場へ。
毎度の茶店で茶葉を買う。
基本的に前世が日本人であったため、発酵させない茶葉が好きなのだが、アイナとローズの使用人であるため、そこは遠慮していた。
一応アイナが雇い主だ。
給料も貰っている。
実のところアイナのSランクレベルの魔術は貴重で、学院としては繋ぎ止めるために契約金を言い値で払わされているらしい。
別段アイナの方も、
「学院を破産させる気は無い」
とはいうものの、
「書類整理よりダンジョンに潜りたい」
も事実である。
とはいえ魔術を研鑽するには学院が一番有用とも言えるため、資料や古代魔術の術式を閲覧するために学院に所属している。
研究室を持っているのは、
「持ち上げられるのが面倒」
との無頼から来る物だ。
あるいはクロウを責められないかもしれない。
とはいえ教授をやっていたためローズという愛弟子を発掘できた点は賞賛されるべきで、ローズの方にもメリットがあったためウィンウィンの関係だ。
「いいんですけどね」
とお空と会話しながらクロウ。
歩いて見つけた別の茶店に入る。
快晴のためテラス席に座り、チョコレートとレーズンクッキーのセットを頼む。
「…………」
悪目立ちしていた。
男の娘メイドだ。
道行く人を観察しながらのティータイムであるはずだが、道行く人に観察されながらのティータイムと相成った。
それならそれで一向に構わないが。
「美味しいチョコレートです」
当人は満足げ。
しばらくチョコを楽しみつつ、護法の構築をイメージする。
さすがに起動はしないが。
ザクザクとクッキー。
レーズンの甘みが程よい。
そこに、
「よう」
とガラの悪い声がかけられた。
革の鎧と腰の剣。
髭は蓄えられており、中年くらいの男性に見えるが、弱々しさは感じない。
「何か?」
律儀に答えるクロウ。
大凡の因果は把握しているが。
「お前がクロウか?」
「はあ」
他にメイド服を着て喫茶している人間が居るならソッチの方が嘘だろう。
「ガキじゃねえか」
「実際にその通りですし」
精神年齢はさらに三十年加齢せねばならないが。
まだ股間に毛も生えていない子どもだ。
それでギルドマスターを破ったというのだから眉唾にもなる。
「言っておきますが暗黙の了解とは言え、小生に喧嘩を売ればギルドマスターに成敗されますよ?」
「まぁそう云うなよ」
カラカラと男は笑う。
「少し稽古を付けてくれ」
「未熟者です故あまりその様なことは……」
「良いから剣を抜け。それとも此処で死ぬか?」
「…………」
渋い顔になるクロウ。
そこにまた別の声。
「乙女の取り扱いには気をつけろ。お前みたいな粗野が触れていい花じゃない」
軽やかなソプラノ声だった。
「ああ?」
男が声のした方を向くと、
「わお」
同じクロウが感嘆の声。
美少女が居た。
 




