チートなサムライ二人目04
「剣聖とクロウが相うたばどちらが勝つか?」
そんな風聞が流布されていた。
アイナとローズが言うに、
「剣聖が勝つ」
が論としては大きいらしい。
「むぅ……」
と唇を尖らせるローズだった。
愛敬の兄を下に見られて不満なのだろう。
「あはは」
アイナは書類と戦いながら軽やかに笑った。
まぁ他人事なのでこれは致し方ない。
「実際に剣聖は強いのですよね?」
「そうですね」
「たとえばどの程度?」
「軍隊の一個大隊程度なら剣一本で」
「うへぇ」
口の形が歪む。
「戦術レベルの剣の使い手……」
そうはいうが、
「クロウ様もモンスターマーチを一人で殲滅なさったじゃないですか?」
「誰でもできますよ」
「こういうから凄いんですけど……」
アイナは嘆息した。
視線を書類に戻す。
クロウは服装通りのメイド稼業。
アイナとローズに茶を振る舞う。
自分の分も確保して、喫茶タイム。
「お兄ちゃんは……その辺……淡泊……」
「まぁ勝った負けたには興味ありませんね」
命がかかるなら別ですが。
そう心中でフォロー。
「にゃ~……」
寂しそうにローズは鳴いた。
とかくお兄ちゃんっ子なのでクロウに対しては気持ちにしろ評価にしろ妹フィルターがかかる。
ソレ自体は責められることじゃないが、
「この先大丈夫でしょうか?」
クロウは念話でアイナに問うた。
「愛しのお兄ちゃんを想い続けて行かず後家も有り得ますね」
念話で返される。
「ですよね」
嘆息。
お茶に渋みはないが、渋い顔になるクロウ。
いい加減茶の淹れ方も進歩のあとが顕著だ。
「お兄ちゃんの……あの……」
「あの?」
「剣とか槍とかいっぱい出す奴」
「剣鎧ですね」
「けんがい?」
「剣護法の一つで……まぁ言ってしまえば串刺しの刑ですけど」
他に言い様もなかろう。
「あれなら……勝てるんじゃ……?」
「あまり魔術には頼らないよう戒められていますけどね」
御大については説明しない。
「謙遜……?」
「自戒でしょうか」
本当に。
何気なく。
素で言うからタチが悪い。
「あう……」
とローズ。
「それにしても小生の耳にまで届く剣聖の噂は無視できかねますね」
「挑めば宜しいのでは?」
「Sランクの冒険者と戦えば注目されるでしょう。嫌ですよ、そんなの」
「そう云いますよね」
平常運転といったところ。
「とりあえずは」
茶を飲み干して、和刀……薄緑を魔術で創り出す。
「剣の鍛錬ですね」
研究室で物騒な素振りを始めるが、既に三人には何時もの風景。
型稽古。
剣の術理の研鑽であって、それがクロウの実力を裏打ちするとなれば、
「至極当然」
程度にはアイナもローズも思うのだ。
「クロウ様は苦労人ですね」
「お兄ちゃんは……真面目だから……」
「それにしても自身を追い詰めること過多ですが」
「おかげで……ローズは……生きている……」
それもまた事実の那辺にはあるだろう。




