ダンジョンには夢がある弐23
「というわけでやって参りました四十二階層」
虚空に説明するアイナ。
このレベルから普通のモンスターも感応石をドロップする。
そんなわけでサクサク攻略……とはいかなかった。
怒濤にして波濤のようにモンスターが軍団で襲いかかる。
「運が良いのか悪いのか」
一概に判断は出来ない。
モンスターマーチ。
ダンジョンに於けるお祭りだ。
多種多様なモンスターが津波のように大勢で襲いかかるダンジョントラップの一つ。
四十二階層でソレが起こった。
倒せば感応石を大量取得できるが、場所が場所だ。
四十階層レベルではモンスターマーチのレベルも高い。
「何だかなぁ」
とはクロウの感想。
字面とは裏腹に声質はワクワクしている。
「あう……」
ローズは怯えている。
「正気ですかクロウ様?」
アイナは魔術を行使していた。
障壁魔術。
それも端的な力によるもの。
ダンジョンの通路を区別するように張られた斥力障壁は、モンスターマーチとクロウ旅団を薄皮一枚で隔てている。
「とりあえず四十一階層に引き返しましょう」
ここでモンスターマーチに引っかかったのは不幸の一種だ。
一階上の安全フロアに戻るのは戦略的にも妥当の判断。
が、クロウが承知するはずもない。
「とりあえず障壁を解いてください」
スラッと腰に差した薄緑を抜いて提案。
「死ぬ気ですか?」
「鏖殺する気です」
クロウでなければ伊達と取られただろう。
「私たちのフォローは?」
「小生を挟んで……」
コンコンと斥力を叩く。
「また障壁を張り直せば良いでしょう」
理には適っているが、
「どうしたものか?」
がアイナの本音。
「勝算は……あるの……?」
妹の疑問も当然だろう。
「無いから面白いんですよ」
屈託のない兄の御言の葉だった。
「あう……」
とローズ。
「とりあえず障壁を張り直してください。小生を挟んで中間に」
「クロウ様の仰るとおりに」
魔術障壁が解かれる。
そして次の瞬間、クロウの背後の次の障壁が張られる。
クロウは退路を失った形になるが、特に憂いも無かった。
「――――」
吠えるモンスター。
その津波に、
「剣鎧」
クロウは剣護法を展開した。
クロウの全身から剣刀槍戟が無数に射出され、先頭のモンスターを鏖殺する。
「魔術ですか?」
アイナが念話で聞いてきた。
「原理は一緒ですね。小生は護法と呼んでいますが」
ザクザクと刺殺されるモンスター。
さらに薄緑が襲う。
神速の剣。
呼吸も掴み、硬度に関係なくモンスターを次々と斬り滅ぼす。
次から次へと襲ってくるモンスターマーチを剣一本で鮮やかに斬り捨てる様は、
「開いた口がふさがらない」
の類だ。
一瞬一瞬で立ち位置を変え、適確な場所取りと適確な疾刃。
空中すら駆ける天翔。
京八流の理。
さらに剣護法を駆使して囲まれても苦にしない。
「どこまで不条理なのか?」
と自身を棚上げしてアイナは驚愕していた。
「うわぁ……」
ローズも似たような心境らしい。
無理ならぬ。
「ふ……」
呼吸を整えて疾駆。
地に足を付けるモンスターは頭部を切られる。
飛んでいるモンスターは単純に斬り殺される。
空中に身を置くだけでもアドバンテージはクロウの物だ。
剣で出来ないフォローは護法が補う。
とは言っても、あくまで、
「面倒くさいから」
であって、要するに効率の問題だ。
このレベルのモンスターなら、その気になれば薄緑一本で滅殺できる。
「というわけで」
クロウは刀を振るう。
「そちが最後の一人ですね」
モンスターマーチの最後の一匹。
アイアンゴーレムだった。
斬鉄剣の前には無意味な堅牢性ではあったが。




