ダンジョンには夢がある弐19
三十一階層。
此処まで来るとさすがに人も減る。
Aランクの冒険者でも来ることの出来ない区画だ。
とりあえずは魔術で火を点けて干し肉を炙る。
それからガジガジと咀嚼する三人だった。
「結局最後に物をいうのは補給ですね」
水。
肉。
麦。
そんな感じ。
炙ったチーズをパンにかけて食べる。
コクのある美味しさが口内に広がった。
「美味しいです」
「畏れ入ります」
ニコッと笑うアイナだった。
チラホラ見られる冒険者たちは誰もが強そうで、クロウたちは胡乱げに見られる。
一応知ってはいるのだろう。
学院教授のアイナ。
ギルマスを破ったクロウ。
そして唯一のアイナ研究室所属のローズ。
「…………」
もむもむと食事をしていると、
「おい」
と声がかけられた。
三人がソッチを見やる。
冒険者がそこに居た。
男性。
老齢一歩手前と云った様子。
ローブを着て杖を持っている。
ベッタベタな魔術師だ。
ここに来るくらいだから相応の実力はあるのだろうが、
「肉体は練られていませんね」
がクロウの論評。
「何か?」
代表でクロウが尋ねる。
「いや、その」
紅に双眸を覗き込む魔術師。
「そっちがローズか?」
「あう……」
指定されて怯む。
「アイナ教授?」
「何でしょう?」
「何故この娘を?」
「秘密です」
単純に才能の結果だが、そこを教える気は無いらしい。
「この私ですら袖にしたのに」
「はあ」
ぼんやりと。
大凡分かっているが、
「要するにアイナ研究室から弾かれた」
とのことだろう。
「決闘しろローズ」
「嫌です……」
「何故だ?」
「怖い……ですから……」
ローズらしい言葉だった。
「畏れ入ったか?」
「です……」
上機嫌に魔術師は笑った。
「お前様は腑抜けだな」
「です……」
否定しない。
「大丈夫ですか?」
クロウが念話でローズに問う。
「大丈夫……」
思念で答えるローズ。
「ではアイナ教授?」
「何か?」
「ローズ以上の実力を持つ私を研究室に……」
「却下」
サクッと。
殆どノータイムだ。
「何故です?」
「邪魔」
言葉を選ばないアイナだった。
その辺はクロウも評価する。
「邪魔って……」
青筋を立てる魔術師。
「では魔術の才を見せてください。そこからでしょう」
「では」
と魔術師。
長々と呪文を唱え、風の斬撃を放つ。
安全フロアに生えている木を切り裂いて倒すのだった。
「二十三点ですね」
サックリと。
「この威力でか!」
「はあ」
ぼんやり肯定。
「むしろ今までリンボで生き残っているのが不思議」
とは三人の通念だが、基本的に常識を名乗れるのは魔術師側だ。
後衛からの支援が魔術である以上、魔術師が呪文を唱える時間を前衛が稼ぐのが必然であるからだ。
ちなみにその程度の魔術ならアイナもローズも無詠唱で具現できる。
「ま、精進してください」
それもどうかとは思うが。




