ダンジョンには夢がある弐16
「術式は覚えましたね?」
「はい……」
「それでは五感延長としての……」
アイナがローズに魔術の講義をしていた。
「ふう」
クロウは隅っこで水浴び。
どこからか湧いて出る綺麗な水。
浮世の垢を落とすのに最適だ。
クロウにはさっぱり分からない講義であるため、参加していない。
「むぅ」
とローズが五感を広げる。
所謂一つの探知結界。
その構築だ。
覗きに来る人間を探知するための防犯魔術と言えるだろう。
アイナは既に展開している……らしい。
ついでに暗示の結界も。
それをとくとくとローズに教授していた。
「持つべき物は良い講師……ですか」
エルフのアイナは、こと魔術に関しては突出している。
習わない手はない。
だからこそ、
「門前市が出来る」
と言われるほど所属希望者が現われるのだから。
そんなわけで今のところ魔術の最奥を受け継ぐのはローズしかいなかった。
探知結界は防犯でも役には立つが、ダンジョンの索敵にも意味を持つ。
その辺はローズも望むところなので、歓迎には値するだろう。
クロウは水中で天翔を使っていた。
水を足場に翔る。
天翔本来の使い方だ。
魔術の練習と言うほどではないが、意識自体は常にしている。
剣術の一環と言えるが。
「あ……何となく……」
ローズの方は進展があったらしい。
「お兄ちゃん……裸……」
ばっちり探知されていた。
ポッと頬を染めるローズ。
逆セクハラだ。
この世界には無い概念だが。
とりあえずは考えないことにする。
水を歩く。
「お兄ちゃん……」
「探知結界は上手くいきましたか?」
「えと……はい……」
「宜しい」
「後は相対座標で、ですね」
所謂結界を動かすという観念だ。
絶対座標だとその場しか効果がないので、水場ならともあれ進軍するダンジョンでは不利に陥る。
「最初から全てが出来るなら学院は要りませんし」
そういうことだ。
ゆくゆく覚えていけば良い。
「それにしても天性の才を持っていますね」
アイナはローズに感心していた。
無論魔術の才だ。
元から才能はあった。
アイナが見出したのだから其処は違わない。
更にデミエルフになったことで、
「開いた口が塞がらない」
レベルになっている。
「凄いですね」
紅の頭を撫でる。
水分を吸ってしっとりした髪だ。
「お兄ちゃんの……役に立つ……よ……?」
「ありがとうございます」
苦笑。
「別に役に立つから好きってわけでもありませんよ?」
「知ってる……」
「ですか」
「お兄ちゃんは……優しいから……」
「そうでしょうか?」
「うん……」
コックリ。
「恐縮ですね」
「本当だよ……?」
「はい。ありがとう存じます」
「むにゃ」
ローズはクロウを抱きしめた。
「お兄ちゃん」
「何でしょう?」
「二十階層のフロアは……ローズに任せて貰えませんか……?」
多少なりとも寝耳に水。
「大丈夫ですか?」
クロウの不安も当然。
ローズはまだ戦い慣れていない。
が、
「実践に勝る経験なし」
これも事実。
「…………」
チラリとアイナを見やる。
肩をすくめられた。
「ではその通りに」
そんなわけでこんなわけ。




