ダンジョンには夢がある弐15
二十一階層。
安全フロアだ。
アイナは換金に従事している。
クロウは型稽古。
ローズはその隣で魔術の訓練。
三者三様に何時もな様子。
「お兄ちゃんは……その……」
「何か?」
「どうして強くあろうとしているのですか?」
「…………」
しばし声を失った。
「平家を滅ぼすため」
と言っても通じまい。
まず正確には違うが。
鞍馬の御大に剣術を学んだのは単純に山暮らしのせいで、元服するまでは単なる少年だった。
元服したのはある意味で京八流を修めたが故。
因果が逆転している。
「剣術を学んだ結果、平家を滅ぼす手段を得ていた」
が正しいだろう。
正誤はともあれ、どちらだろうとローズには意味不明なはずだ。
「何ででしょう?」
あえて言うなら習慣だろうが、そこから算出される結果の凄まじいこと。
御大なら、
「修羅よな」
と笑って酒の肴にするところ。
「習慣……」
「後は先生に恥をかかせないため……とか?」
とはいえオーガに勝てる人間も中々いないものだが。
「はあ」
ポカンとローズ。
「そういうローズはどうでしょう?」
「お兄ちゃんと一緒に居たいから」
「?」
少し疑問だった。
明晰なクロウにしてみれば珍しい。
「お兄ちゃんの強さに……追いつきたい……」
「ああ。そういう……」
とはいえ、クロウは別の見解がある。
「十分ローズは強いと思われますが?」
「魔術が……強力なだけ……」
「十全では?」
そっちの才能のないクロウは憧憬できる。
隣の薔薇は赤いのだ。
「でも……距離を縮められたら……どうしていいか……わからなくなる……」
「近づけないようにすればいいのでは?」
「一応……習ってはいますけど……」
結界だったり障壁だったり。
「ダンジョン内で距離を取って戦ったら小生に勝ち目はありませんが……」
「それ以外では……どうとでも……?」
「戦いようはありますね」
そこは偽れないクロウだ。
「別に強くならなくてもローズから離れたりしませんよ?」
「でもダンジョンには……ついていけなくなる……」
「駄目ですか?」
「駄目……」
「ですかぁ」
型稽古中。
「けれど確かに似てはいますね」
「……?」
「小生も大切な人を守るための剣になりたかったはずです」
最初の一歩は何処からだろう。
何を間違えたのだろう。
どうすればよかったのだろう。
答えはまだ出ていない。
「もし答えが出たときに……」
「…………」
「力を持っていなくて残念……そんな結果を恐れているのかもしれませんね」
「力が無いから残念……」
「です」
ローズがクロウを目指すように、クロウも御大を目指している。
あらゆる事象の極致。
非常識すら置き去りにする不条理の概念。
「自分は未熟だ」
クロウはそう思う。
御大がいなければローズは死んでいた。
「もし次に同じようなことがあったら?」
そんな仮定には冷や汗も出る。
「だから強さを目指すのかもしれませんね」
クロウは屈託無く笑った。
「あう……」
赤面するローズ。
その手元の炎は竜と成って天井に向かい、熱波を広げて四散した。
「器用ですねぇ」
「デミエルフですので」
「小生も使いたいのですけど」
「ダンジョンに……穴を開けた……」
「ああ、アレは例外で……」
説明も億劫だ。
「武術とは二足のわらじでしょうか?」
そうも思う。
というより混同化が正しいのだが。
天翔、薄緑、剣護法。
魔術は使える。
単に剣術の延長線なだけで。




