ダンジョンには夢がある弐13
「楽しそうですねぇ」
ザクザク切り捨てられるモンスター、
アイナは背負っているリュックサックにそのドロップアイテムを入れていく。
「何故にそんなに入るのか?」
は当然の疑問ではあるが、
「魔術って便利ですねぇ」
そんな御様子。
クロウは理解を拒否した。
ローズの方は少しずつ学んでいるらしい。
「ダンジョン攻略」
ソレについて。
そのために法度を破ってアイナからエルフの血を授かった。
魔術のレベルで言うなら既に生徒である必要すらない。
クロウ……お兄ちゃんと一緒に居るために生徒であり続けているだけだ。
そして尚添い遂げるにはダンジョン攻略の能力は必須。
ほとんど狂気にも近い集中力で魔術を学び、戦闘を学び、殺害を学ぶ。
既に言ったとおりだ。
生命の死は基本的に悼むに値しない。
大切な事象が吹き消えることこそを人間は恐れるべきだ。
それがローズにとってのクロウで、クロウにとってのローズ。
アイナも此処に含まれるだろう。
前回の失態。
ソレを思い出すだけでズキリと胸が痛む。
呪いの原理だ。
意識が肉体に影響する意味では悪い方向にプラシーボ。
ヴィスコンティで挑んだリンボ攻略。
そこで死にかけた。
結果としてクロウ……というより御大に助けられたわけだが、もう少し遅ければローズはクロウに心的外傷を与えているところだった。
クロウが名誉を嫌うように、ローズはクロウの不幸をこそ嫌う。
愛されている。
「妹として」
と注釈は付くが。
けれども大事に扱われていることは分かるし、メイドとして淹れてくれるお茶やチョコレートも美味しい。
「もし自分がもっと強かったらお兄ちゃんを泣かせずに済んだ」
ギシリと歯が軋む。
守られてばかりは嫌だった。
一緒に居たい。
一緒に戦いたい。
一緒に笑いあいたい。
何より安心させたい。
そのために人であることを捨てたのだ。
ダンジョン攻略に於ける技術をアイナから学び、より強力な魔術の発露を志す。
そうして一人前の魔術師になる。
「今度こそお兄ちゃんを泣かせない」
ローズは自分が死ぬことを兄が悲しむと自覚している。
であれば強くなるより他に無い。
少なくとも一緒にダンジョン攻略に臨むなら。
例え何があっても生還する生命力。
クロウの能力は常識から遊離しているが、けれども其処へと辿り着くのは条件ですらない。
大前提だ。
巨大な甲殻類が現われる。
ビーストクラブと呼ばれる蟹だ。
甲羅は硬く、鋏は鋭い。
元々蟹の鋏は摘まむための物だが、ビーストクラブのソレはテコの原理で切り裂く物に昇華されている。
ダンジョンの非常識さには慣れてきたが、
「ふむ」
仮にも最難関クラスのダンジョン。
その甲殻類モンスターの甲羅を易々と切り裂くクロウと手に持つ片刃の剣が、
「何者なるや?」
と云った様子。
「お兄ちゃん……凄い……」
ポツリと零す。
「さすがに鉄ほど硬くもありませんし」
有り得ないことをサラッと言われる。
ローズの風魔術も金属を切断できるが、クロウはフィジカルでソレを為す。
「無茶苦茶だよ……」
「恐悦至極」
誇る気も無いのが少しだけ残念だ。
一緒に居られるのは嬉しい。
出奔されたときは悲しかったが、巡り巡って数年ぶりの再開。
運命を感じる程度には乙女になった。
クロウにしてみれば、
「お兄ちゃん大好きだけで人外になられても」
とな感じだが、特別言葉にはされない。
ドロップアイテム……蟹の鋏をヒョイとアイナは鞄に押し込む。
またビーストクラブが現われた。
「お兄ちゃん……どいて……!」
「はい」
スッと壁際に逸れる。
「ウィンドブレイド!」
呪文を唱える。
マジックトリガー無しでも魔術を使えるローズだが、イメージからトランスへの最適化を考慮して、強力な魔術には一節の呪文をストックしている。
これはアイナも同じだ。
現われた風の斬撃はギロチンのようにサクリとビーストクラブを切り裂いた。
「わお」
とはクロウ。
自身の刀の切れ味とどっちが鋭いか?
そんな救いようのないことを考える。
らしいと言えばらしいのだが。




