ダンジョンには夢がある弐12
「それにしても最難関ですか」
ボーンベアーを斬り滅ぼしながらクロウたちはダンジョンを進む。
前衛一人だが、そもそも突出しすぎている。
時折思い出すのは鬼ヶ山のモンスターたち。
ルナウルフにルナベアー。
メタルゴーレムからポイズンスライム。
「人の生存を許さぬ天険の地」
そう呼ばれているらしい。
クロウは幼い頃から(今も幼いが)体力作りのため走りに出掛けていたが、死んだ覚えもない。
今生きているのだから当然ではあっても。
ただオリジンと過ごした数年の歳月で、鬼ヶ山の管理はクロウの仕事だった。
モンスターの適時間引き。
モンスターが暴れ出したら、一般的な自然環境に多少の誤差が生じる。
山を管理するのがオリジンの役目だが、前世の御業を持っているクロウも彼女に手を貸すことは出来た。
顧みて今。
「最難関」
「Aクラス」
そう呼ばれるダンジョンだが、
「これで?」
と言ったご様子。
ポイズンバットを切り裂く。
天井付近から毒液を飛ばしてきていたが、少なくともクロウの間合いの内だ。
天翔。
空を飛ぶとはまた違うが、ある意味飛翔よりタチが悪い。
剣の術理に地面が必要ないという時点でどうかしている。
無論クロウには呼吸と似たような動作でしかないが。
タタンと宙を蹴る。
ポイズンバットを斬って、地面に着地。
ドロップアイテムは「解毒剤」だった。
ポイズンバットの毒を受けてもポイズンバットを倒せば死なずに済む……ということらしい。
まず前提として毒を受ける必要がないため換金アイテムの類だが。
「お兄ちゃん……?」
「何でしょう?」
「離れた敵は……魔術師に任せて……いいんだよ……?」
「小生が自身で望んでいますので」
胸に手を当て一礼した。
「バーサーカー……」
「一応武の心得は修めておりますが」
ダンジョンでの狂乱っぷりから逆算するに説得力の欠片も無いが。
アイナとローズはダンジョンを歩いているだけ。
「楽ですねぇ」
アイナの方は理解も爽やか。
「本当にリンボはAランクのダンジョンで?」
驕りではあろうが、聞くのも仕方ない。
ぶっちゃけ鬼ヶ山の方がハードだ。
「ですから最難関です」
「むぅ」
「理解していないでしょう?」
「ええと……」
「クロウ様は正式にではありませんがSランクの冒険者とイコールで結べます」
「小生だけの力ではないのですけど……」
「然りですが単純に事実としてです」
「畏れ入ります」
「で、傭兵のランクについては話しましたよね?」
「AとBとC……でしたっけ?」
「はい。Aクラスがランクの最上級です」
頷くアイナ。
「あれ?」
とクロウ。
クロウにしろアイナにしろ、事実上はSランクと言われている。
「いわゆる人間の限界を極めた冒険者をAランクと評するのです。実際にギルドマスターは強かったでしょう?」
「異論はありません」
あれほど鮮やかに翻弄しておいての言葉ではないが、マスターが強いのはクロウも本当に信じている。
「で、ギルドマスターをAランクの最上級として、その上をいくのがSランクというわけです」
「ふむ」
「つまり人間の限界を超えた冒険者……私たちの場合は挑戦者でしょうか?」
「ですね」
「当然冒険者にSランクがある様に、ダンジョンにもSクラスが存在します」
「Sクラス……」
「最難関の更に上。無理クラスと言われる地下遺跡ですね」
「無理クラス?」
「ええ。つまり人間がどれだけ武術や魔術を極めようと攻略できない無理ゲーのダンジョンのことを俗説でそう呼ぶんですよ」
「Sクラスのダンジョン……」
「はい」
「難しいの?」
「クロウ様には……どうでしょう?」
SクラスのダンジョンにSランクの冒険者が挑戦すればどうなるや?
そういう話だった。
出現したビッグアントを斬り滅ぼす。
昆虫なので死に難い。
結果、頭部と胴を切断することで無力化。
中々しぶとく生き続けたが、頭部だけでは行動できず、肉体だけでは統合が取れない。
「Sクラスかぁ……」
「挑戦するおつもりで?」
「ワクワクしませんか?」
少年の瞳は輝いていた。




