ダンジョンには夢がある弐08
十階層。
ボスフロアだ。
大勢では入れず、一パーティごとに順番が回ってくる。
意外と列をなしていた。
数えられる程度ではあるが。
Aランクの冒険者パーティが和気藹々と順番を待っている。
以前とは違うが、どちらかといえば例外は以前の方らしい。
「Aランクの冒険者のリンボ挑戦は一種の通過儀礼」
そう念話でアイナから聞かされる。
時間帯の問題もあるだろう。
要するに間が悪いのだ。
「以前の十階層のボスは何でしたっけ?」
とはクロウの問い。
「当てになりませんよ」
とアイナ。
「?」
「一回ごとにボスモンスターも変わりますから」
アイナは肩をすくめた。
「じゃあ、今から挑戦する冒険者と後から挑戦する小生らでは相対するモンスターも違うと?」
「そういうことですね」
「ははぁ」
何となく納得。
そんな気分。
「大丈夫……」
とはローズ。
「ローズがお兄ちゃんを守るから……」
「頼りにしています」
念話で応酬し、クロウは愛妹の頭を撫でた。
頬が鮮やかな紅に染まる。
「むぅ」
と不満げなアイナ。
想っているのはアイナも同等だ。
シスコンではあれども責められないのも他人の弱さ。
オリジンにしろローズにしろ、何かしらクロウと因縁がある。
「では自分は?」
と顧みて思うアイナ。
その辺は乙女相応だ。
実年齢は記述しないが。
とりま大きめのリュックサックを背負って順番待ち。
ほどなくボスと相対する。
現われたのはガーゴイルだった。
始祖鳥を悪魔的に変貌させた外見。
これが一番的を射ているだろう。
ただし質料は石。
巨大な石の魔鳥。
曰くガーゴイルである。
生物と違って単純な攻撃は通用しない。
「では無理か?」
と提議されれば、
「否」
とクロウは答えるだろうが。
「――――」
吠えるガーゴイル。
「…………」
対するクロウは脱力していた。
フラリと体勢を崩す。
容赦なく襲ってくるボスに、神速で応えた。
パンと音がした。
ガーゴイルの爪がクロウの残像を引き裂く。
その残像が消え去ると、そこにクロウは居なかった。
接触。
交差。
ガーゴイルと背中を見せ合う位置。
京八流の一手。
溜抜。
居合いや抜刀術とも呼ばれる。
石で出来ていようとモンスターはモンスター。
居合いで首を刎ねられれば地面に吸収されてドロップアイテムだけを残す。
「石の羽ですか」
拾って鑑定するアイナ。
主に魔術儀式に必要とされる触媒だ。
売るだけでも大金は入る。
それを片手間に為したクロウが、
「何者なるや?」
との感想だが。
「一々驚いてもしょうがない」
はアイナとローズの共有する処。
実際にクロウの実力はこの世界にはあってはならないレベルだ。
最難関のダンジョン……リンボのボスを一手で滅ぼす剣士。
「さすが」
以外の言葉は出なかった。
とはいえクロウにしてみれば、
「君たちが言うか」
との辺りだ。
どちらも魔術師としての能力は突出している。
前衛が意味ないくらい強烈な威力を持つ。
魔術封印系のフロアがなければ前衛が必要ないレベルだ。
特にアイナは。
結局は誰もが誰もに、
「人のことを言えるか」
というレベルだった。
 




