ダンジョンには夢がある弐05
「う」
とローズ。
「どうかしましたか?」
クロウが問う。
「トラウマが……」
「ああ」
納得してしまう。
ヴィスコンティの当主に無茶ブリされてリンボで死にかけたローズである。
ついでに兄二人はモンスターに食われた。
墓は造ったものの遺骨の一つも拾えなかったため、名だけが墓に刻まれている。
「今回は小生もいますから大丈夫ですよ」
クシャクシャと紅の髪を撫でる。
「お兄ちゃん……」
ポーッと赤くなる乙女であった。
「その……お兄ちゃん……?」
「何でしょう?」
「お兄ちゃんは……家督を継がないの……?」
「その資格はないでしょう」
少なくともクロウは騎士か魔術師かなら騎士に分類される。
実際にパーティで前衛を務めるのはクロウの任だ。
「魔術多才なローズの方がよほど魔術貴族ですよ」
憂いのない賞賛の言葉だった。
元よりクロウが此処にいるのは見聞を広めるためで、適正な年齢になったらオリジンの元へ帰ることを夢見ている。
命の恩人にして魂の恩人。
非才の自分を救ってくれた徳高い人物。
故に、
「先生」
と呼んでいるのだから。
「じゃあ……ローズが譲れば……」
「そもそも家には帰るつもりもありませんし」
率直だ。
残酷でもある。
「オリジン様と……ですか?」
アイナが苦笑した。
「ええ」
爽やかに応える。
曇りの一片すら見受けられない。
「あう……」
とローズ。
心奪われるのはしょうがないが、
「諦めて貰うより他に無い」
もまた事実。
「ま、先のことを悩んでもしょうがありません」
撫で撫で。
「父の代でヴィスコンティの血統が途絶えても世界が滅ぶわけでもないのですから」
不遜と言うには無邪気すぎるが、楽観論と言うには破滅的すぎる。
が、実際、
「だからどうした」
で完結するのもクロウのポジティブさだ。
「いいの……?」
ローズとしては寝耳に水だろう。
「親の借財、子が背負い」
のつもりであったため、ヴィスコンティの血統を受け継ぐ前提だったのだが、
「それが何か?」
と全く斟酌しないクロウの思考は斬新だった。
「血統に責任を持ちたいのなら止めませんが」
ホケッと言ってのける。
「そもそもローズにも弟や妹は出来るでしょうし」
実際に居る。
まだ幼いが貴族に嫁いだ正室や側室と勝負して子を為しているのも事実だ。
別段ローズが気張る必要もなかった。
「あうあ……」
精神的な肩こりが治ったような感覚。
「自分が何を悩んでいたか」
分からなくなるローズだった。
「クロウ様は奔放ですね」
「山暮らしなもので」
肩をすくめる。
今度は思念で声をかけられた。
「オリジン様の次は私ですよ?」
「先生がソレを認めるのならですけどね」
「側室で良いですので」
「ええ。考慮はしましょう」
そんな感じ。
「それではレッツゴーです」
ダンジョンに入る三人。
「まぁ一階は安全なフロアなんですけど」
それもまた事実。




