ダンジョンには夢がある弐03
衆人環視がどよめいた。
「ま、そうなりますよね」
感応石のイヤリングで念話。
「お兄ちゃんは……凄いから……」
「さすがにローズには負けますが」
「無理……だよ……」
「そ~かな~?」
「お兄ちゃんの……運動能力……パない……」
「それしか出来ないんですけどね」
クスリと笑う。
とりあえずはクエスト受注。
判断はアイナに任せた。
「書類の検分は?」
念話で尋ねる。
言葉ではギルド兼バーであるためソフトドリンクを頼んでローズと兄弟仲良く飲んでいるところ。
「ダンジョンに潜って成果を上げるので、その間の処理は上司に任せました」
「ああ、あの苦労人の……」
教授の上。
おそらく学院長だろう。
学院としてもアイナとローズ……特に生徒であるローズがダンジョン攻略で名をなさしめるのは歓迎するところだろう。
そういう意味ではクエスト受注も学院側には立派な明文と言える。
大義があるかと言えば論評を差し控えたくなるクロウではあった。
そもそもにして年齢が幼すぎる。
クロウは思春期の年齢のはずだが、外見はどうしても幼子だ。
少なくともどれだけ上を見積もっても二桁には届かない。
これはエルフであるアイナにも言える。
そして一人常識人で『あった』ローズが精神年齢同様の外見をしているが、こちらもその力量に関しては年齢不相応である。
「まだ戦いに於ける思考の反射が追いついていない」
とはクロウの評だが、
「集団殲滅なら小生より上手」
と認めてもいた。
クロウは牛乳を、ローズはココアを飲んで、ボーッと話し合う。
そこに、
「あなたがアイナ研究室のローズ様ですか?」
声がかけられた。
「あう……」
人見知り。
「どうしましょうお兄ちゃん」
と念話で相談。
「まぁどうしてもとなったら小生が介入しますので」
そう言い含める。
「ご冗談のように目見麗しい女性ですね」
「恐縮です……」
「是非ともあなたのナイトにさせてください」
「ふえ……?」
「…………」
まぁそうだろうね程度はクロウも察していた。
元より最難関レベルのダンジョンを水に浸した障子の様に破りさるメンツだ。
便乗しようとする輩は多いだろう。
ましてローズは兄の贔屓目を無視しても愛らしく、魔術の素養高々で、なおかつ貴族の血統ときた。
綺麗な花となれば蝶でも蜂でも寄ってくるというもの。
「どう思う……お兄ちゃん……?」
「どうぞお好きに。可否はそっちで決めていいですよ」
コレも念話。
別に一人増えた程度でどうにかなるレベルでも無い。
足を引っ張られる可能性は考えたが、予想誤差の範疇だ。
「これでもAランクの剣士です。セントラル騎士学院で模範とされた事もありますよ」
「はあ……」
ぼんやりと肯定。
「是非とも一緒に」
「謹んで……ごめんなさい……」
ピクッと冒険者の片眉が跳ね上がる。
「理由を伺っても?」
「足手纏い……」
「…………」
最後の沈黙はクロウの物だ。
「ローズは距離の取り方が不思議ですね」
念話でツッコむ。
人見知りでオドオドしていながら、断るべきはキッパリと断る。
普通怯めば相手方にイニシアチブを握られる物だが、どうやらクロウの妹には別の思考が存在するらしい。
「実力は自負しておりますよ」
そんな冒険者に、
「紳士ですね」
クロウが論評した。
「何がいけないので?」
「邪魔……」
「おい」
ツッコミは思念で行なうクロウだった。
「そちらの幼年よりよほどと存じますが?」
どう見てもクロウは幼すぎる。
侮られるのも自然ではあるが、その実力自体は既に証明されている。
ギルドマスターと戦いコレを破ったのだから。
「そんなこと……ない……」
お兄ちゃん大好きっ子としては不本意な比較だろう。
「では剣で証明しましょう」
スラリと剣を抜く冒険者。
「…………」
クロウは淡々とミルクを飲んだ。




