ダンジョンには夢がある弐02
「お茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
アイナは書類を見分しながら湯飲みをクロウから受けとる。
「ローズも」
「ありがとうです……」
おずおずと受け取るローズ。
片手で湯飲みを受け取り、もう片手は炎を握っていた。
「器用ですね」
「万事修行です……」
ニコリと笑うローズ。
クロウも魔術は使える。
天翔や薄緑……剣護法がソレだ。
が、全て剣術の延長線上の技術であるため単体で完結する戦力だ。
それが祟って以前はローズを助け損なおうとした経歴を持つ。
が、剣にしか才がないのか、他の魔術はとんと修めようのないぶきっちょであった。
元が規格外なのでソレについては、
「望みすぎ」
とも言える。
「うがー!」
アイナが吠えた。
「どうかしましたか?」
「書類整理が面倒くさいです!」
まず順当な感想だ。
セントラル魔術学院の教授。
やることは山積しているが、あまり気の長い方でもない。
「ダンジョンにいきましょう!」
いきなり何を?
それが兄妹の感想。
「暴れたいです!」
物騒なアイナ。
「気持ちは分かりますが……」
共感するクロウ。
「分かるんだ……」
ツッコむローズ。
前世の業でクロウは名を上げる事を良しとしていない。
既にセントラルに名の知れている特級戦力ではあるが、そう易々と外れる楔でも無い。
結果、ダンジョン攻略はクロウにとっても都合が良い。
人間ではなくモンスターが相手なら名誉や矜持を賭けずに切り滅ぼす事が出来る。
上級クエストをこなすことは更に名を上げることと直結するが、一応ギルドの法度で安定しているため、ダンジョンに潜るのは上等だ。
「で、クラスは?」
「Aクラス!」
アイナは断言した。
基本的に人間が攻略できる最難関のダンジョンを、
「Aクラス」
と表現する。
二度潜ったリンボがその一つだ。
セントラルは多数のダンジョンが存在するが、リンボは「最難関」と呼んでいい攻略の難しいダンジョンである。
ダンジョンは基本として、
『Aクラス』
『Bクラス』
『Cクラス』
の三つに分類される。
そしてコレは冒険者ギルドにも適応される。
各々のランクが各々のダンジョンを攻略して名を上げる。
ダンジョンとは冒険者にとり名誉の場だ。
アイナは学院の教授。
クロウは研究室のお茶くみ係。
どちらもギルドには所属していない。
それでも仮に二人をランク付けするならSランクになるだろう。
最難関ダンジョンすら攻略すると言われるランクだ。
数えるほどしかいない逸れ者。
ちなみに学院にこもっているため知られていないが、ローズもエルフの血が馴染んでいるためSランクの素養を持つ。
前衛がクロウ。
後衛と補助がアイナとローズ。
「とりあえず」
と書類を脇に避けてアイナ。
「クエストを受注しましょ」
教授の仕事は肌に合わないらしい。
もとより研究生を取っていなかったため、ローズの存在が圧迫している。
今までが給料泥棒だっただけだ。
そこをつつく真似はクロウもローズもしないのだが。
「ということはギルドへ?」
「ええ!」
頷くアイナ。
「依頼者から金をふんだくってやりましょう!」
言って良い事悪い事。
まぁぶっちゃければ冒険者なんてそんなものではあるが。
「とりあえず魔術封印フロアさえ注意すれば」
「大丈夫。先の件ではちゃんと無傷で合流したでしょ?」
コレには裏が在るが、
「南無三」
とアイナは話す事はなかった。
別に魔術の起動を封じられようとそんな物は幾つかのカードの一つを切られたようなものだ。
大勢に影響は無い。
「なら良いんですけど……」
メイド服姿で黒くしなやかな長髪を梳きながら納得するクロウ。
「ダンジョンですかぁ」
ローズもまたぼんやりと言ってのけた。
「じゃ、ギルドに行きましょう!」
そゆことになった。




