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転生したら異世界でした04


 クロウは意識を取り戻した。


 目を開いて状況確認。


 洞窟だった。


 炯々と照らされた洞窟内。


 岩に囲まれた空洞。


 そこにクロウは寝かせられていた。


 スッと腹筋運動の要領で上半身を起こす。


 香ばしい匂いが鼻をついて胃を刺激する。


 明かりの方を見やる。


 火が点っており、そこで肉が串焼きにされている。


「おう。起きたか」


 そして一人の人物がクロウに声を掛けた。


 ボロ布を纏った美女だ。


 奇しくもクロウと同じ黒髪黒眼。


 漆黒の瞳は慈愛に溢れ、豊かな乳房は母性を感じさせる。


 洞窟を照らす炎を挟んで反対側に立て膝をついている。


 足と足の間の性器がかろうじて影に塗りつぶされて見えないが、際どいのも事実。


 先に人物……と云ったが正確ではない。


 人に酷似しているが同一でも無かった。


 角があったのだ。


 額から二本。


 楽しそうにつり上げた口の端……そこから異様に発達した犬歯が覗いていた。


 角と牙。


「よかった」


 クロウは安心したらしい。


「無事地獄に巡りつきましたか」


「残念じゃったな」


 地獄の鬼は飄々と言う。


「ここはまだ顕界じゃ」


 地獄ではない。


 鬼はそう云った。


「修羅道でしょうか?」


「そのしゅらどうとやらは知らぬが顕界……浮世じゃよ」


「生きている……と?」


「胸に手を当てて心臓の鼓動を確かめれば良かろうな」


 言われて手を当てると確かに心臓は動いていた。


「小生はまだ生きている」


 言葉にこそしないがハッキリと生を感じ取れた。


 同時にグギュルルルゥと盛大に腹の虫が鳴いた。


「…………」


 赤面する。


 もとが美貌の持ち主だ。


 その反応はとても愛らしい。


「腹が減ってるじゃろ。食え」


 串焼きを差し出す鬼。


「遠慮します」


 クロウはソレを袖にした。


「血が足りんじゃろう?」


「どうぞ小生のことはお気遣い無く。存分に味わってください」


「死ぬ気か?」


「小生は今生でこそ功に焦ることなく生きると決めていました。他者のために生きられない人生など繰り返すつもりもありません。でありますれば鬼様の食事を奪うことを是とは出来ないのです」


「どういう人生を歩んだら幼子がそんな境地に至れる……」


 鬼はむしろ戦慄していた。


 が、それはそれとして攻撃の方向性を変える。


「じゃあ尚更きさんには食事して貰わんと」


「ですから」


「幼子を見殺しにした罪悪感をわしに背負わせる気かや?」


「…………」


 沈思黙考。


「わしとて一欠片の良心くらいは持っとるよ。その善を台無しにすることはお前のエゴではないのかや?」


 一種卑怯とも取れる理論展開。


 クロウの良心に楔を打つ言葉だった。


「忘れては貰えないでしょうか?」


 それがクロウの精一杯。


「無理じゃ」


 鬼はけんもほろろ。


「とにかく食えぃ。イノシシの肉じゃ。臭みさえ気にしなければ美味じゃぞ」


「…………有り難く」


 観念して串焼きを手に取る。


 噛んで咀嚼する。


 焼かれたことで臭みも抑えられ、しっかりとした肉の歯ごたえが心地よい。


 噛めば旨みも溢れ出し、空腹の体に染みいった。


「どうじゃ?」


「美味しゅうございます」


 本音だった。


 貴族の食事とはまた違う。


 どちらかと云えば前世の食事に近い。


 とまれ目の前の鬼の良心を踏みにじることも出来なかったため、黙々とクロウは食事を取った。


 二人揃って肉を胃袋に収めると、


「で、童よ」


 鬼が尋ねる。

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