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金なる明星より降りし者11


「はは……」


 ローズは出血した腕を逆の手で押さえてへたり込んだ。


 既に兄たちはモンスターの胃袋の中へ。


 傭兵は満身創痍で、生きてはいるが時間の問題。


 ローズは一人奮戦していたが、モンスターマーチに襲われてボロボロにされた。


 とりあえず魔術でモンスターマーチそのものは焼き払ったが、箇所箇所に怪我を負う。


「痛い」


 という感覚はあまりに新鮮。


 かつ魔術に必要なコンセントレーションを阻害する。


 食料も水も尽きた。


 体力も風前の灯火で、このまま休憩エリアまで歩いて行けるかは極めて怪しい。


 それもモンスターに遭遇しないという楽観論の上で、である。


 なおかつ現実は皮肉気に厳しい。


 へたり込んだローズを睨めつけるようにボーンドラゴンが現われる。


「もういいでしょう」


 そうローズは思った。


 死期を悟る……と云う奴だ。


「最後に何を思おう?」


 決まっている。


「お兄……ちゃん……」


 次の瞬間、灼光がローズの目を灼いた。


 超高熱のエネルギー塊が天井を蒸発させて現われ、地面を蒸発させて地下へと消えていく。


「……………………え?」


 呆然。


 そうもあろう。


 基本的に『ダンジョンの壁や床は破壊不能』……そんな通念があるからだ。


 実際にローズがモンスターマーチを退けるに強力な魔術を行使したが、ソレによるダンジョン破壊や天井が崩れて生き埋めなどの災害は起きていない。


「では先の光は何か?」


 ローズの知るところではないが外道極まった悪辣な禁術に相違ない。


 そして貫通したダンジョンの穴から一人の男の子が現われる。


 シルクを思わせるほど鮮烈にして丁寧な白い髪。


 まるで女子のように長く整ったソレだ。


 着ている服はメイド服。


 その腰に和刀を差して、背中から翼を生やしている。


「天使?」


 言葉には成らなかったがローズはポカンとしてそう思った。


 だが、そのご尊顔はさっきまで想い描いていた大切な人のソレだ。


 即ち、


「お兄ちゃん……?」


 クロウの物だった。


「クロウの心を支えた少女よ。よくぞ無事で」


 クロウらしからぬ言葉遣いでクロウはシニカルに笑う。


 翼がバサッと広がる。


「――――!」


 ボーンドラゴンがいきなり現われたクロウを敵と認識してブレスを吐く。


「千引之岩」


 ポツリと呟くクロウ。


 魔術障壁が展開されてドラゴンブレスは遮られる。


「粋ではないな」


 スッとクロウはボーンドラゴンに腕を差し向ける。


「インドラの矢」


 それだけ。


 何かしら魔術的記号や触媒の類を必要ともしない。


 一言詠唱しただけの魔術はボーンドラゴンを焼き滅ぼして、その延長線上にある壁を蒸発させ(地下ダンジョンでの表現ではないが)地平線の彼方まで輝きを失うことがなかった。


「ふむ。たまにはこう云うのも良いな」


 それは照れ隠しの言葉だったが、それだけクロウを想っている証拠でもある。


「…………」


 ローズには意味不明だろう。


 憑依が解け、クロウの髪が白から黒に戻る。


 背中の翼はいつの間にか消え失せ、残ったのはメイド服と愛刀……それからクロウとクロウの守りたかった者。


「……っ!」


 クロウはギュッとローズを抱きしめた。


「よがっだぁ……っ」


 涙声だった。


 ボロボロと滂沱の哀惜。


 心の痛みと、当てる形而上的ガーゼ。


「よがっだでずぅ!」


 ローズをギュッと抱きしめて、ただただ守れたことを尊ぶ。


 兄の威厳も、男の矜持も、この際一切合切必要なかった。


 ただ守りたい人を守れた。


 それだけでクロウは心の底から満足なのだから。


「痛いよ……お兄ちゃん……」


「うん。うん。でも……」


 それでも、


「ローズが生きていてくれて嬉しい」


 結局ソレに尽きるのだ。


 何時までも、何時までも、ギュッとクロウはローズを抱きしめる。


 転生者の呪い。


 ソに対する明確な解答。


 大切な妹を救うことが出来ただけでもクロウは、


「ローズを救ったのも確かだが……自分が宿業から救われたのもまた確か」


 と因果逆転な想いを涙とする。


 名誉を得るためでは無く。


 功績を詰むためでは無く。


 ただ偏に守りたい人を守るための刃。


 世はそんな概念をこう呼ぶ。




「――正義の味方――」




 と。


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