金なる明星より降りし者05
チャプンとクロウは風呂に浸かった。
それはアイナもそうであるしローズもそうだ。
「予想の斜め上ですね」
「大丈夫……? お兄ちゃん……」
「予想外ではありますし、あまり形而上では大丈夫とも言えませんけれども……」
中々正直なクロウだった。
実際にその通りだ。
心労に関しては概ねいつも通り。
「理由無く剣を振るうのはあまり自己奨励したい類でもないのです」
平常運転だ。
「お兄ちゃん……」
ローズはギュッとクロウを抱きしめた。
体格的にはローズの方が大きいためクロウは女体に包まれる。
肉体年齢が相応なら危なかったが、生憎クロウのソレはまだ条件を満たしてもいない。
その善し悪しはこの際議論しないとして。
「なんだかなぁ」
ローズの心臓の音を聞きながらクロウはフニャリと心中の猫耳を垂れさせる。
「勝てますか?」
アイナの疑問も当然だ。
「わかりません」
クロウの応答も相当だ。
「けれどもクロウ様ならわざと負けるくらいはしそうですので……」
「何時もならその通りではありますけどね」
苦笑い。
クロウがどういう人間か?
アイナは結構覚っているらしい。
理解者がいるのはクロウとしても悪くない。
「お兄ちゃんは……最強……」
ローズはクロウを抱き寄せたまま信頼の重みを預けてきた。
「胸が無いのが残念」
とは思いはしても口にはしないクロウだ。
「次回刮目して待て」
とも言える。
とはいえクロウが二次成長する頃にはローズもまた相応の年齢を経るため、誤差は増すばかりなのだが。
「生徒ローズ」
「?」
「クロウ様を誘惑しないでください」
「お兄ちゃんに……甘えてるだけ……」
「むぅ」
アイナとしては面白くないらしい。
とはいえクロウの性事情については把握している。
観念論としてクロウの貞操意識についての心配はしていないが、
「オリジンの次は自分が」
というソロバンも弾いてはいるのだ。
こと肉体年齢の足並みに於いてはローズよりアイナの方に理があるのも確か。
故に強い言葉は使わないが、それでも恋する乙女は慕う男の娘が別の女の子に抱擁されているとあまり面白くもないらしい。
「ローズがクロウの妹」
くらいは承知しているが、時折ローズがクロウを見る瞳に兄妹愛以上の光が差すのにアイナは平常でいられない。
クロウは気づいていないらしいが。
「ふにゃ」
と湯に沈んでいる。
特にローズの裸体にどうこうも思っていないようだ。
精神的には熟成し、肉体的には未熟である。
そのアンバランスが結果として良い方向に作用していた。
「…………」
が、乙女の心は侮り難し。
アイナもクロウに抱きつく。
「ふや」
未熟な女体がクロウを襲う。
「広い風呂で何故密着しているのでしょう?」
とはクロウの思念だが、念話ではなかった。
「クロウ様」
「お兄ちゃん……」
「へぇへ。何でございましょ?」
「「どうか無事で……」」
アイナとローズの最たる懸念だ。
クロウの実力そのものは疑っていない。
むしろ信頼過多だ。
なおクロウの実力が世間的に評価されることにも……当人の心情を無視して好意的かつ積極的ですらある。
故に勝つにしろ負けるにしろ、
「ご武運を」
と願うのは必然と言えた。
「小生としては先生のために剣を振るいたいのですけど……」
それはこの世界でのレゾンデートル。
クロウの最も想うところ。
世界を知るまでは叶わない願いでもありはしたが。




