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転生したら異世界でした03


 月夜の空。


 月光の明かりだけを頼りにクロウは今まで散々駆け巡っていた鬼ヶ山へと向かった。


 自刃すればローズに重責を負わせかねない。


 それはどうしても避けねばならなかった。


 結果クロウが選んだのは行方不明だった。


 街中で死ねば死体として検分される。


 が、山で死ねば自然に帰るだけだ。


「困ったものです」


 ポツリと呟く。


「この世界でも小生は上手く出来なかったということですね」


 その通りだった。


 それ故に贖いをせねばならないのだから。


 夜の鬼ヶ山は昼のソレより禍々しく、なお暗黒にそびえ立っている。


 月明かりが無ければ鬼が出ても納得がいったろう。


 それほどに不気味な山だった。


 山中に入る。


 目的は無い。


 正確には山で果てるという目的こそあるものの、鬼ヶ山を選んだのは、


「一番無難だったから」


 これに尽きる。


 分け入っていくクロウの耳に獣の咆吼が聞こえた。


 狼だ。


「――――!」


 獲物を捉えた狩人の瞳。


 狼の目には燗と火が灯っている。


 数は五頭。


 その程度は読み取れる。


 山が鳴動する。


 不吉な風が獣の匂いを運ぶ。


 血に飢えた狼のソレだ。


「あまり楽に死ねそうもありませんね」


 基本的に狼の狩りは出血で自衰を促す類のものだ。


 頭部を破壊したり心臓を一突きにされるという芸当は望めない。


 噛みつかれて、痛みに悶えて、狂い死ぬ。


 クロウはその未来を想起しながら受け入れた。


 自らの能力を誇ることで父を裏切り……さらに家名を辱めた。


 そんな自分の末路がコレなら、


「致し方なし」


 素直にそう思える。


 まだクロウが九郎くろうであった頃。


 妻子を殺したときの絶望は今も胸に。


 此処が修羅道でも地獄道でもないのは既に承知しているが、家に居て可愛い妹を傷つけるだけなら、小生は此処で果てよう。


 結局、人の心が分からないという宿業については生まれ変わっても治らなかったらしい。


「今度こそ迷わず地獄へ」


 襲いかかってくる狼を無視して大樹の根元に腰掛ける。


 背中を大樹に預けて瞳を閉じた。


 真っ暗闇がクロウの視覚を封じる。


「――――!」


 狼が吠えて襲いかかってくるのを耳だけで捉える。


「ごめんなさい」


 誰に向かって呟いた言葉か。


 おそらく当人も分かっていないだろう。


 あるいはこの世の全てに対する生誕の業の謝罪かも知れなかった。


 狼がクロウに喰らいつく。


 牙で腕と脚と首とを貫き、生命力を奪う。


 痛くはある。


 痛覚も自然に働いている。


 だが、それが遠い出来事のようにも思える。


 別に構わないのだ……クロウには。


 野山で餓死するより山の供物となって果てる方が有意義だろう。


 狼とは転じて大神おおかみと呼ばれる。


 神の化身。


 であればその血肉になるのは本望と言える。


「ごふっ」


 首を噛まれて喉から血が逆流する。


 結果咳き込んで吐血。


 痛みの幻想は遠くにありて、なお死はこうまでも身近にありて。


「がっ……げっ……」


 神に祈る。


「次こそはどうか……地獄に落ちますように」


「それでいいのか?」


 人語が聞こえた。


 無論狼が喋るはずも無い。


 クロウはお迎えだと覚った。


 死人を地獄に送る火車の類か。


 迎えがあるのは良いことだ。


 血が止まらない。


 酸素欠乏の原理こそ理解しないものの、血を流しすぎれば死ぬことは嫌でも身に染みている。


 何せ前世では兵を切りも切ったり。


 平家を滅ぼすために幾人も血に沈めた。


 それは妻子もそうであるし、なおかつ最後には自分すら対象になった。


 自刃。


 別に一度が二度になろうと問題は無い。


「山雨来らんと欲して風楼に満つ……か。山鳴りがするから警戒したが……まさかこんなアホウが居るとはのう」


 地獄の案内人……妖怪たる火車の声を聞きながらクロウは意識を手放した。


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