金なる明星より降りし者01
「是非ともギルド登録を!」
「嫌です」
「先にも申したとおりクロウ様なら最初から最上級の称号を与えられますので」
「却下します」
そんな感じ。
「俺の師匠になってください!」
「嫌です」
「兄貴の剣を俺も使えるようになりたいのです」
「却下します」
そんな感じ。
「セントラル騎士学院に入学なさい」
「嫌です」
「君を教授として歓迎するよ」
「却下します」
そんな感じ。
クロウは時の人と成った。
原因は…………回り回って自身の軽挙妄動だろうが、溜め息をつきたい気分でもある。
時は少し遡って、
「ふぅ」
とクロウは吐息をついてチンと愛刀を鞘に収めた。
モンスターマーチの殲滅。
大量のドロップアイテム。
それも感応石だ。
ボッコボコにされた傭兵がアイナとローズを連れてクロウと合流を果たすと、女子二人がクロウに心配の声を掛けてくる。
というか念話で幾らでも心配自体はされたが。
「モンスターマーチはどうした?」
問うたのは傭兵。
アイナとローズはさもあらんが、傭兵の方は現実の把握に苦慮している。
まっこと不可思議に相違ない。
クロウはしばし考えて言葉を探し、
「一応鏖殺しましたが……コレで」
愛刀……薄緑の柄頭をチョンチョンと人差し指で叩いてそんな説明。
「は?」
呆然とするほか無い傭兵だった。
「何か?」
クロウとしては特別なことをした意識も無い。
とはいえ状況としては傭兵の驚愕に一定の理がある。
ここはダンジョンでも最難関のリンボと呼ばれるソレ。
モンスターと戦うに当たって熟練の傭兵すら死を覚悟するような場所だ。
当然モンスターの大量発生を目にすれば逃げ出すのが自然であり、かつ真っ当でもある。
モンスターの一匹一匹が熟練の傭兵に匹敵する戦力。
繰り返しになるが熟練の傭兵でも警戒に値するダンジョンである。
そのリンボのモンスターマーチを刀一本で(というと誤りだが)殲滅したという。
証拠もあった。
床に散らばる多量の感応石。
モンスターマーチの夢の跡である。
「いったい何処まで非常識なのか?」
傭兵の困惑は正当だ。
クロウ自身は納得の領域なのだが。
とまれアイナの受注したクエストは大成功を収める結果となる。
クエスト以上の感応石を採取して良心的な値段でクエスト発注者に売ったのだから。
傭兵の吹聴とクエストの大成功……そしてギルド員の驚愕や悲鳴によってクロウの名はセントラルに知れ渡ることになる。
時は元に戻り、あくる日。
「ほ」
とクロウはアイナの研究室でチョコを飲んでいた。
冒険者ギルドとセントラル騎士学院……ならびに騎士学院の生徒たちによる押しかけが酷く、クロウは軽い人間不信に陥っていた。
憂いた結果、研究室に引き籠もることと相成った。
アイナが絶対ルールであるアイナ研究室なら他者が軽挙に妄動できないというソロバンの弾き方。
「けれども時間の問題ですよ」
とは書類を片付けているアイナの言。
「わかってはいますけども……」
クロウとしても追い詰められている空気程度は理解できる。
チョコを一口。
今日も今日とてメイド服を着てアイナに茶を淹れていた。
当然研究室生のローズにも。
「お兄ちゃんがすごいって……皆言ってる……」
はにかむローズ。
「未熟者なんですけどね」
クロウとしてはあまり天狗にもなれない。
「鞍馬の御大じゃあるまいし」
とは皮肉なのかなんなのか。
一応のところセントラル騎士学院や冒険者ギルドは無条件でセントラル魔術学院に侵入することは出来ないため、その点に於いては有利に働く。
無論、鬱憤が溜まればどう弾けるかはさすがに思考の隅にもあるが。
「なんだかね」
と云った気分。
チョコを一口。
「やはり名を売ろうって気にはならないのですか?」
「何度繰り返したか分かりませんが小生は名誉の類を必要としないのです」
曰く、
「大切な人を守る剣であれば良い」
そんな主張。
「勿体ない……よ……?」
ローズにしてみれば身内の誉れだ。
不当であったクロウの評価が覆ったことに喜んでいるのだが、当の本人の反応が鈍いため困惑している様子である。
「まぁ時間を経れば熱も冷めるでしょう」
あまり説得力の無い楽観論だがクロウの願望の一端でもある。
現象の発端としては頭痛が酷くなる程度にしか価値が無い。
「クロウ様がそう仰るなら私は良いんですけど」
アイナもクロウの実力を知る一人だ。
が、同時にクロウの信念を知ってもいる。
名誉欲に対するアンチテーゼ。
セントラル魔術学院に入学することが誉れだと知って拒否したクロウである。
惚れたアイナの負けではあるが……故にクロウの気質も知る。
口にしては、
「勿体ない」
というがあくまで通念や常識の話であって押し通そうともしないし、出来ないことも理解していた。
立場としては、
「冒険者ギルドや騎士学院にクロウ様をとられたらかなわない」
が根底にある。
その延長線上でクロウがメイド服を着てアイナに茶を淹れているのも、それはそれでどうかと思うが。
「小生は然程でもないのですけど」
結局行き着く先はそこなのだ。




