ダンジョンには夢がある08
一晩じっくり寝て、起きればダンジョンは明るかった。
どこから光を供給しているのかはクロウの知るところではないが、中々便利な機能である。
「くあ」
と欠伸。
起き上がる。
早朝起床は武士の常だ。
ともあれアイナとローズはクロウの隣で寝ていた。
「…………」
「…………」
チョップ。
「あう」
「むむ」
起きる二人に、
「おはようございます」
と丁寧に朝の挨拶。
「ども」
「くあ」
眠気混じりに応対する二人だった。
三人で休憩エリアの食事処に顔を出す。
地上よりも割高な食費だったが、特に苦でもない。
炭火で焼かれたモンスターの肉をもむもむと食べやる三人。
それから、
「攻略を再開しましょう」
というより、
「三十階層レベルで感応石は取れます故」
アイナはそう言った。
「ふむ……」
剣の柄を握ってググッと力を込める。
体調は万全だ。
「ダンジョンでは何が起こるか分からない」
アイナが脇を酸っぱくして言っていることだ。
ともあれ三人はダンジョン攻略に乗り出す。
さすがに最難関のダンジョンであるため、攻略する人間も限られ、人の気配はそれほど無い。
特に気にするクロウでないとも言う。
「――――」
一般的な傭兵には対処困難なモンスターもクロウにしてみれば剣の露と消えるのみだ。
サクサクと最難関ダンジョンを苦も無く攻略していく。
「あ」
とアイナがぼやいた。
階層を降りたところだ。
「何かありましたか?」
クロウが尋ねる。
「魔術不可エリアです」
「なるほど」
魔術の起動が出来ないエリアのことだ。
けれど不可思議には相違ない。
「小生の剣は維持されていますよ?」
その通りだ。
「ついでにアイナの明かりの魔術も」
ライティング。
そう呼ばれる光明の魔術だ。
どちらも魔術の産物である。
「魔術の起動を阻害するトラップですね。現象として維持されている魔術は起動の封殺にける対象の外なので問題が無いわけです」
「にゃるほど」
「こうなるとクロウ様に任せるしかないのですけど……」
「万事ぬかりなく」
そう言ってご覧じるクロウだった。
ゴーレムにトロール、スケルトンにヴァンパイア。
全て剣の露と消える。
特に支障も無く進んでいくクロウたち。
感応石はまだ拾えていない。
「もう少し深い場所に行くべきでしょうか?」
アイナがそう首を傾げた。
「お兄ちゃんが……可哀想……」
そう言う問題でもないが。
「とりあえずはこの階層は脱することが肝要ですね」
アイナとローズに話しかける。
当人は斬撃を振るってモンスターにとっての死神と化していた。
「もはや無情の領域」
とはローズの言だが特にクロウも否定はしない。
実際に名誉も何も無く、ただ倒すためだけに剣を振るうのはクロウとしても都合が良い。
「疾!」
また一体のモンスターを切り滅ぼす。
そうやって攻略していくと、落とし穴の罠があった。
先行したクロウの足下が抜ける。
「あ」
ポカンとクロウ。
魔術不可エリアであるため天翔も発動できない。
結果、
「あああああぁぁぁぁぁ……」
木霊を残して地下迷宮に引きずり落とされるクロウ。
南無。




