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ダンジョンには夢がある07


「こちらの」


 とアイナはクロウを手の平で指し示し、


「クロウ様はあなた方では纏めて相手にしてもなお通用しない御方です故」


 サクリと爆弾発言。


「っ」


 傭兵が顔をしかめる。


 さもあらん。


 幼子が武力に於いて最難関ダンジョンに潜れる傭兵より強いと言われれば侮辱とイコールだ。


「はぁ」


 クロウの嘆息。


 元より名誉のための戦いは好まないため無益に人と敵対しない。


 それがクロウの基準である。


「では少し稽古を付けましょうか」


 傭兵は剣を引き抜いた。


 どうやら相手方はやる気満々らしい。


「頑張り申してくださいクロウ様!」


「お兄ちゃん……頑張って……!」


 アイナとローズはクロウの心境も知らず無責任に声援を送った。


「さてどうしたものか?」


 クロウは鞘から刀を引き抜いてダラリと脱力する。


「ていうか」


 とは感応石による念話。


「何で二人揃って煽るの?」


「クロウ様の強さを皆に理解して貰いたいが故です」


「お兄ちゃんは……最強だから……」


「…………」


 どちらの意見も理解できないクロウだった。


 とはいえ降りかかる火の粉を払う程度の対処はまっこと必要だろう。


 別段クロウとしても自身に怪我してまで相手の名誉を守ることに拘ることもない。


「いいんですけどね」


 抜いた刀がチラチラと挑発するようにダンジョンの明かりを反射する。


「構えろ」


 傭兵が言う。


「構えていますよ」


 クロウが言う。


 一種の無構えと呼ばれる型だ。


 制圏を最大限広げたソレ。


「舐めてるのか?」


「一々本気ですけども……」


 クロウとしては特に形而下の意味での憂慮はない。


 形而上では憂慮しかないが。


「参る」


 高速と呼べる速度。


 地面を蹴って加速した傭兵の速度は十全に練られていた。


「へえ」


 とクロウが感嘆する。


 傭兵が放ったのは刺突。


 狙いは胸部。


 心臓ではない。


 肺だ。


 善意の一欠片なのか……それとも単純に意地が悪いのか。


 それはクロウの察するところではなかった。


 もっとも杞憂だが。


「…………」


 スッと半身に身を傾けて刺突を避ける。


 次の瞬間、無構えにて握っていたクロウの愛刀がクンと跳ね上がる。


 一瞬の出来事だ。


 雲耀の領域。


 クロウの放った剣撃は傭兵の持つ剣を根元から断ち切った。


 まるで熱したナイフでバターを斬るように。


「っ!」


 絶句する傭兵。


 その喉元に薄緑の切っ先が突きつけられる。


「まだやりますか?」


 当人は交渉のつもりだが傍目には脅迫だ。


「失礼」


 そう言って傭兵は武威を取り消した。


「剣を亡き者にされた以上、戦いようが無い」


 というのが結論だが、仮にその思いが言語化されれば、


「剣を持たなければ物事を切れないというのも不便ですね」


 とクロウは反論しただろう。


 特に意義のある言葉でもないが。


「さすがはクロウ様です」


「お兄ちゃん……!」


 二人の祝福。


「あまり功に驕りたくはないのですけど……」


 はクロウの常識だが、


「まぁいいでしょう」


 と納得もする。


 アイナとローズの幸せそうな表情を見れば、大切な人のために戦ったことを誇りに思えた。


 前世で頼朝という大切な人のために剣を振るったように、オリジン……ならびにアイナとローズのために剣を振るえるならそれ以上はないのだ。


 功に驕ることなく、しかして大切な人を剣で守る。


 優しい世界に生まれなかった以上、剣の術理は有効だ。


 そのためなら幾らでも刀を振るえるクロウであったのだから。


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