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争えないのは血か業か08


「兄様。ここは俺が」


 今度はブレットが呪文を唱えた。


「我は火を念じて形と為す。フレイムブレット」


 炎の弾丸が撃たれた。


 とはいえ速度的には然程でもない。


 ヒョイヒョイと軽くアップテンポに躱す。


 弾丸が撃たれ、それを避ける。


 そんなことを繰り返しているとブレットは疲労を感じ始めた。


 術式に従って体力を消費するよう仕向けていたらしい。


 別に珍しい演算でも無いのだが、クロウとは無縁だ。


 ついでにローズとも。


 ローズはローズで万が一に備えてコンセントレーションを高め何時でも魔術を繰り出せるように緊張していたが、それも徒労無益と相成った。


 喜ばしい事である。


「それで勝ったつもりか!」


 兄が吠える。


「一切思っておりません」


 クロウの謙遜も中々だ。


「恥を忍んで……小生には攻撃手段がありません。避けるしか出来ないためどうにか矛を収めて貰えませんか?」


「…………勝ったと思うなよ」


「一切思っておりません」


 丁寧に口調まで同一にして繰り返した。


 そして天翔を止めて地に足を付ける。


 クロウが背中を見せると、


「我は火を念じて形と為す。フレイムクロス」


 長男の方がこれ幸いと奇襲を掛けた。


 炎の風呂敷が広がって灼熱の空間を造る。


「はは! 跳んで跳ねるだけの愚物が! これが魔術の正しい使い方だ!」


 勝ち誇ったアーロンだったが、その炎は突発的な風に吹き散らされて無意味と化す。


 ローズの魔術だ。


 無詠唱であるためどんな現象かは想像に依るしかないが、クロウが救われたのも事実。


 無論クロウとしてはローズの援護が無くとも把握はしていたが。


「邪魔をするかローズ!」


 誰の仕業かはさすがの兄たちも理解している。


 そのローズの性能も。


「兄に対しての反抗と取っていいのだな?」


 故に立場による攻撃を繰り出す。


 典型的な貴族主義の末期症状だが、プライドが収まらないのは何も兄たちばかりではない。


「お兄ちゃん……なんで本気でやらないの……?」


「全力です」


 兄たちに聞こえない声量でクロウは卑下した。


「超嘘つき……」


「光栄です」


 クシャッと紅の髪を撫でる。


 要するにローズに対する御機嫌取りだ。


 こうなるともうローズとしてはクロウを批判も出来ない。


「にゃー……」


 鳴くローズは大層愛らしかった。


「その様な落ちこぼれの肩を持って何になる!」


「兄に従え! 貴様の技術はヴィスコンティで扱うべきだ」


 クロウは論理の矛盾さについては無視した。


 クロウ自身は家名を棄てているつもりなので特に生まれを名誉とは思っていない。


 兄たちの顔を立てるために引き分けに持っていったのだが、それすらも侮辱だったらしい。


 でなければ試合を終えて油断した(正確には否だが)クロウの背中を魔術で撃つ事を良しとはしないだろう。


「小生では兄様方には敵いませんね。ここは恥を忍んで逃げさせて貰います。失礼」


 クロウはローズの足を払うとお姫様抱っこして空中を駆けた。


 要するに退散……逃亡したわけだ。


 こうなれば場に残った二人が勝者で間違いは無い。


 少なくともローズの持つ三人の兄の意識では……だが。


「ふわぁ……」


 とローズ。


 天翔。


 天を翔る事で見下ろせる俯瞰は絶景であった。


 特に高所恐怖症でもないようだ。


「お兄ちゃんの魔術は……素敵だね……」


「お褒めいただき恐悦至極」


 苦笑しかなかった。


「今日はこのまま帰りましょうか」


「うん……」


 ギュッとクロウの首に抱きついて、ローズは至福の一時だったらしい。


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