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争えないのは血か業か06


「お久しぶりでございます」


 クロウとしては会いたい類ではなかったが、ローズと一緒に居ればこういう事態も想定は出来る。


「背が低いのな。お前」


「恵まれなかったもので……」


 ローズはともあれ兄たちには正直になる必要も無い。


 まさか鬼の血が流れているとは夢にも思っていないだろう。


 基本的に鬼の血はブラックマーケットにしか流通されていない。


 それをクロウが買ったなどと言う意見の方がどちらかと云えば非常識だ。


 なお金剛と呼ばれる魔術を備えている鬼からクロウが血を奪ったとの見解も非常識に分類される。


 事実としては鬼……オリジンの厚意によって分けて貰ったのだが、人間相手に非情になるオーガの類が自ら人類に血を分けるとは想像どころか空想の埒外だ。


 そういう意味では、


「成長が遅い」


 の方が意識や通念としては納得できる。


 年月を経ればバレる類の問題ではあるが、それは後の事として構わないのもまた事実。


「で、何だ? 無能が何故此処に居る?」


 初手から相手を見下す。


 貴族の業だ。


「アルバイトです」


 然程間違っていない意思表明にして立場表明。


 アイナの使用人として採用されているクロウである。


 嘘ではない。


「お前がこんな所に居るとはな」


 兄たちは嘲弄した。


「ですね」


 クロウとしては相手取るのも徒労だ。


「跳んで跳ねるだけの魔術は上手くなったか?」


 天翔のことだ。


「それなりに」


 謙遜。


 建前上ではそう呼ぶ。


「で? 何でお前がローズと一緒に居る?」


「偶然ですね」


「立場を弁えろ」


「ええ。ではその様に」


 席を立とうとするクロウに、


「駄目……」


 とローズが涙声で引き留めた。


 兄の横暴。


 クロウの謙虚さ。


 それらが複雑に化学反応を起こしてローズの涙と相成る。


「ザコに感情移入してどうする?」


 とは兄たちの言だ。


「お兄ちゃんは……強いよ……?」


「…………」


 クロウの沈黙。


(それを此処で言ってほしくはなかった)


 そんな感想。


「は! ヴィスコンティ家の恥さらしが俺らに勝てるとでも?」


「そう言いました……」


 涙声だが確固たる意志があった。


「クロウ?」


 兄の一人が尋ねる。


「まさか勝てるなんて思ってないよな」


「まさか、ですね」


 クロウとしては厄介事に相違ない。


 対話で片付くならそれ以上は無い。


「が、愛する妹は別の意見らしいが?」


「勘違いの産物でしょう」


 どこまでも腰の低いクロウだった。


「お前も学院生か?」


「先にも言った様にアルバイトで所属しているだけです」


 嘘ではない。


「名誉や功績は生きるにあたって邪魔な物」


 そう言い含めているため、クロウは学院に在籍していない。


 アイナや学院長辺りに言わせれば、


「勿体ない」


 の一言だが。


「で、そのアルバイト風情が俺らに勝てると?」


「そう言いました……」


 ローズは確信的に頷く。


「勘弁して欲しい」


 率直なクロウの感想。


「面白い」


 ヴィスコンティの兄たちは加虐的に唇を歪める。


「決闘しろクロウ」


「承った上で負けとして欲しいです」


 功に逸るはクロウの禁戒だ。


『兄たちのプライドを粉砕する』


 それは前世の自分と重なる不遜でもあった。


「そうは言うがな」


 兄の一人が皮肉っぽく言う。


「可愛い妹はお前の勝ちを疑っていないみたいだぞ?」


「誤評です」


「まぁ喧嘩を売られれば買わねばな」


 兄の一人が言う。


(心の狭い)


 とはクロウの思念。


 要するに、


「クロウという人間に調子に乗られる」


「ローズがアイナ研究室に所属される」


 それらが、


「気にくわない」


 という幼稚な感情だ。


「はあ」


 クロウの嘆息。


 疲労はむしろ心の方面だ。


「兄たちに於いては気に掛けるべき事柄でも無いと思いますが?」


「単純にお前が気にくわない。ソレで争うには十分だろ?」


「さもありなん」


 十字を切ってクロウはチョコレートを飲み干した。


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