争えないのは血か業か05
「お兄ちゃん……」
「何でしょう?」
「もし帰ってきたくなったら何時でも帰ってきていいから」
「ローズが権力を握るから……ですか?」
「です」
ローズの根幹だ。
肩身の狭い思いをしていたクロウをどうにかしたいと思い、ヴィスコンティ家に於ける発言力を得るため魔術を修めたローズである。
『全てはお兄ちゃんのため』
そんな標榜。
クロウとしては、
『それが負い目なんですが』
が本音ではあるがローズに向かって言わないだけの分別はある。
仮にローズがヴィスコンティ家に於いて発言力を持とうと、
「然程関係ない」
との理由もある。
『元よりローズの意図は察している』
と言えるし、
『それが家出の原因』
とは言えない。
ローズの責任感に重圧を与えるためだ。
それでもヴィスコンティの名にとって自身が不要であることは思い知っているため卑屈にならざるを得ない。
『受け入れてくれた先生こそ愛おしい』
とも言う。
あくまで形而上での言葉だが。
「ローズは自分のために何かを為そうとは思わないのですか?」
残酷と知ってクロウは問う。
クロウを知る第三者が居れば「お前が言うな」とツッコんだことだろう。
「あう……」
呻くローズ。
「お兄ちゃんが……欲しいですから……」
『わりかし破綻しているらしい』
と悟るクロウ。
言葉としては、
「ローズはローズのために魔術を修めるべきですよ」
と無難な気配りしか出来なかったが。
「お兄ちゃんが居ない家なんて……家じゃない……」
「…………」
ポンとクロウはローズの頭に手を乗せた。
「有り難くはありますよ」
クシャッと紅の髪を撫でる。
「けど小生に縛られすぎです」
「お兄ちゃんにとって……ローズはどうでも良い存在……?」
「愛らしい妹です」
本音だ。
少なくとも赤点ではない。
百点満点でもないが。
「じゃあローズが……」
「ローズが?」
「家にお兄ちゃんの……居場所を作るから……」
帰ってきてください。
そう言いたいのだろう。
「何度も言いますがあまり帰郷に興味はありませんで」
「ローズはお兄ちゃんと一緒に居たい」
中々のブラコンだった。
「光栄です」
クスッとクロウは笑う。
心を温めてチョコを飲んでいると、
「ローズ」
とクロウではない声がローズを呼んだ。
「…………」
クロウは沈黙を選ぶ。
特に反応すべき事でも無い。
赤い髪と瞳の少年が二人。
ローズに絡んできた。
「どうやってアイナ教授を落とした?」
さもあろう。
アイナが研究室に招いた唯一の生徒がローズだ。
理屈を当人から聞きたいのは一定の理がある。
「教授は教えてくれませんでした……」
精一杯の抵抗。
事実には相違ないのだが。
「出し惜しみしてるんじゃ無かろうな?」
二人の兄はローズを睨み付ける。
「…………」
クロウは飄々とクッキーをかじってチョコを飲んだ。
「あんまりハンパなこと言ってると……」
そこまで言って、それから四つの赤い視線はクロウを捉える。
「ん……?」
困惑。
さもあらんが。
「お前、クロウか?」
ヴィスコンティの血族。
クロウとローズの兄たちだった。